スカイブルーの憂鬱




「花夜ちゃん、朝ですよ」
「ん、うぅん…あと5分」
「だーめー」

俺の朝は花夜を起こす事から始まる。低血圧で寝起きの悪い花夜を起こすには、ちょっとしたコツがいる。

「朝メシ、紅鮭のムニエルですけどー冷めるんですけどー」
「え、起きる」

まぁ、ちょろい。

「ぎんときィ」
「ん?」
「紺のスーツに水色のブラウスが良いー」
「はいよ、ストッキングは?」
「この前買ったベージュのやつ」
「ラメってるやつね」

ベッドの上に、指定された服をクローゼットから出して積んでいく。
これも俺の仕事。
もぞもぞと布団の中でうごめく花夜。
器用にも布団の下で着替えている。
ただし、これは恥ずかしさから生み出された技ではなく、寒さ対策なのだそうだ。
風呂上がりに堂々と真っ裸でビールを飲む姿を見れば、寧ろ恥じらいたくなるのは俺の方だ。


「よし、できた」
「コンタクトと化粧と髪は?」

布団から出て来たのは。
濃紺のスーツをぴったり着こなし、寝起きの前髪をゴムでくくって、すっぴんにノンフレームの眼鏡をかけたアンバランスな花夜。

「ごはん食べたらするよ」
「まあ良いですけどね、俺は」



朝食前の花夜の日課と言えば、新聞と株式情報に目を通す事。
薄い眉を寄せて隅から隅まで眺める。

「また株式下がってるよ」
「不景気だからな」
「んーまぁね」

二人分の朝食を用意するのは、俺の仕事。
和食派の花夜に合わせて、今では味噌まで自家製だ。
昆布で出汁を引いて、自家製味噌を溶かした味噌汁の今日の具は湯葉と葱。
産地直送のキララは花夜のお気に入り。
古なじみが流通業を営んでいるお陰で、我が家の食卓には新鮮な魚が並ぶ。
お新香のぬか漬けは花夜のお母さんの直伝で、分けて貰ったぬかを大切に使っている。


「花夜ちゃん、8時ですけど?」
「え、もう!早く言ってよね」

手を合わせてごちそうさま。
パタパタと慌ただしくバスルームへ向かい、前髪を崩しながら戻って来た。

「はみ出てるぞ、口紅」
「拭いて!」

指先で目の前に突き出された唇の端を拭う。
崩された前髪は左右に梳いて、スプレーをかけてやる。
襟足がはねてなければ完璧だ。

「今日は?メシは?」
「わかんない、夕方メールする」
「はいよ。今日の弁当は懐石風だぞ」
「ありがとう」

スリッパを突っかけて玄関に向かう花夜の後ろを、バッグを持って追い掛ける。
エナメルのピンヒールを履いて、バッグを手渡せば出来上がり。


「じゃあね、銀時。いってきます」
「いってらっしゃい」


頬に唇を押し付けてやれば、笑顔で玄関の外へ消えていった。




「さて、今日は良い天気だから。シーツでも洗うか」


ベランダから外を眺めて、伸びをひとつ。



坂田銀時。
職業、主夫。


惚れた女が安心して帰って来られる場所を創る事に燃える、闘うプロフェッショナルだ。













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