箱庭の遊戯





「なに笑ってんだ?」
「ん、思い出し笑いよ」
「面白ェ話か?」
「哀しい遊女の事を思い出したの」
「ふーん」
「江戸の男達の高嶺の花だったのに、たった一人の男に堕ちて、吉原を去った可哀相な女もいたのよね」
「しばらく噂になってたよな」
「そういえば。心中したとか、行方知れずだとか。賑わってたわね」
「心中する趣味はねェよ」
「あら、銀時。わたしは構わないわよ?」

隣にいるこのひとが、どんなにだらしない男だってこの際構わない。
銀時が、いてくれるだけで良いから。

「お前そんな趣味あったのか」
「内緒。それとも一緒に死んでくれる?」



いらっしゃいませ。と最敬礼する杓子定規なボーイと二人だけの、小さなスナック。
かぶき町の片隅にひっそりと、銀時の為にだけ生きると決めた。その為の、小さなお城。
銀時が安心して呑める場所を作れたら、キャバクラでもスナックでも良かった。
焼酎のイチゴミルク割りを作れる場所なら、なんでも。



「ママ」
「なぁに」
「そろそろ看板です」
「そうね、閉めてくれる?」


更けていく夜が愛しい。
銀時と生きていくなら、かぶき町の喧騒だって愛しく思える。
そんな当たり前の幸せが刹那的で、一瞬を噛み締めるように生きていられる事が奇跡みたい。



「銀時、そろそろ帰って頂戴な。看板よ」
「かてェ事言うなよ」
「あなたほっといたらずっと呑んでるでしょう」
「花夜をアテに呑むのが美味いんだって」
「まぁ、光栄ね」
「本気にしてねェだろ」
「そんな事ないわ」



攘夷志士と売れっ子遊女の行く先を、誰もが案じていたけれど。
現実って砂糖菓子くらい甘いのね。
だって笑っちゃいそうになるくらい、幸せなんだもの。
かぶき町という箱庭で繰り広げられるなんて事ない日常が、こんなにも大切になるなんて思いもしなかったわ。



「銀時、幸せね」
「そうかい」
「ええ、とっても」




困ったように笑うあなたが隣にいて、良かったって思うのよ。













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