prologue





覚えているのは、いつも玄関先で支度をしている姿。
虎閣楼の名妓・花夜が白夜叉に陥落した、なんて噂になる事はどうでも良かった。
醜聞でも構わない。銀時がいてくれたら、それで良かった。



「銀時」
「ん?あァ、花夜か」
「また闘いに行くのかい?」
「それが俺の生き方だ」
「詰まらない事で死ぬんじゃないよ」
「つまるつまらねェは俺が決める事だ」

玄関の式台に立って銀時を見送る事に、気付いたら慣れていた。
蓮っ葉な口を叩いてばかりで、いってらっしゃいすら言った事がない。


「あんたが死んだら、誰が香華を上げてくれるんだい?」
「お前が泣いてくれんなら、線香なんかいらねェよ」
「莫迦もここまで来たら大物だね」
「惚れたのがでけェ男で良かったな」


傍らの刀を掴んで外へ向かう銀時を、あと何度見送れば終わるのだろう。


「花夜はイイ女だから、俺がいなくても大丈夫だろ?」
「あんたなんか、いなくたって…」


強がるべきだ。
吉原で名妓と鳴らしたわたしが、一人の男の為に泣いてはいけない。
そんな事は判っているのに、言葉が続かない。


「悪い、泣かせたいんじゃねェんだ」
「あんたは莫迦だ」
「知ってるよ」
「あんたに惚れたわたしはもっと莫迦だね」
「俺にゃあ勿体ないイイ女だよ、お前は」
「でも、わたしは…」


強く抱き寄せられる感覚に、胸が詰まる。
込み上げる涙を、押し止める事が出来ない。


「ぎんとき」
「あァ」
「帰って、来て」
「約束する」
「必ずだよ」
「首と胴が泣き分かれても帰って来るよ」





頬に触れた唇の感触を置いて、銀時は出て行った。










いつだって思い出すのは、去っていく広い背中。
朝靄で薄れていく、白い髪が目に焼き付いて離れない。





今でも。














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