初めて達海くんのおうちにお邪魔した。ご家族は誰もいなくて、物音ひとつしないおうち。
達海くんの部屋には、パイプベッドと本棚と、小さな硝子テーブルとクッションが3つ。それしかないのに、部屋のあちこちからフットボールの気配がする。達海くんの、部屋だ。
なんだかほっとする。




数学を教わる為に、硝子テーブルに広げられた教科書。
でもノートは真っ白でなんにも進まなかった。
達海くんの話しに夢中で、そんなものは後回し。意味のない話しばかりだけど、達海くんがどんな事に興味があるとか、そんな話しが楽しい。
達海くんが考えている事を少しでも知りたくて。達海くんの楽しそうな顔を見ていたくて。達海くんの話しにどんどん熱中してのめり込んでしまう。



「そんでね、ボールがギューンってなってさ」



達海くんは興奮すると擬音語が増える。身振りも大きくなる。
キラキラした顔が眩しくて、思わずわたしは目を細めた。


「ねー、俺の話しばっかで退屈?」
「そんな事ない、達海くんの話し楽しいよ」
「由岐の事も話してよ」
「面白い話しは出来ないよ?」
「由岐が俺の事知りたいのとおんなじだよ、多分」



達海くんはわたしなんかより、ずっと大人で。優しいのにぶっきらぼうで。
胸の中がふんわり熱くなって、やっぱり達海くんが好きだな、なんて思う。


「わたしは、フットボールをしてる達海くんが好き。マックでいっぱい食べる達海くんが好き。何考えてるかわかんない達海くんが好き」


考えてみれば、嫌いな達海くんなんていないんだ。
どんな達海くんでも好き。
当たり前みたいに、好き。
『好き』が溢れて弾けてしまいそうで、胸の中に仕舞っておけなくて、吐き出て来た。
達海くんは、そんなわたしの真っ赤な顔を見ないふりして、ニヤリと笑っている。


「俺は、由岐ならなんでも好き」



どうして、どうして。達海くんには勝てないんだろう。
わたしの欲しい言葉をなんでもくれて、わたしの不器用なところをトロトロになるまで甘やかしてくれて。



「わたし、こんなに幸せで良いのかな」
「俺も由岐といると幸せ」
「フットボールは?」
「フットボールを見ててくれる、由岐がいたらもっと幸せ」


今まで見た事ない穏やかな顔で微笑むから、胸が高鳴った。
どきん。どきん。
目の前の達海くんに触れたくて伸ばした指先が、熱い達海くんのてのひらに包まれた。



「ちっちゃい手だなー」



引き寄せられたわたしの指先に、達海くんのくちびるが触れた。
冷たいくちびるが、何度もわたしの指先に触れて、優しい気持ちが弾けそう。




「由岐が好き」



達海くんの体温とか、くちびるの感触とかが、頭の中を掻き回して。
心臓の音がうるさくて、達海くんの声が聴こえない。



「わたしだって、達海くんが好き」



震える声で、震える指先で、紡いだ気持ちを伝えたら。
テーブル越しに達海くんが近付いて、くちびるにくちびるが触れた。
熱いくちびるが、離れていくのを寂しいとすら思った。



「由岐とのキスはもっと好き」


くちびるを舐める達海くんに、クラクラしたのは内緒の話し。




(このまま蕩けてしまいたい)


指先




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