今年のインターハイの舞台は、うちの学校のグラウンド。
沢山の応援がかけつけた。
わたしもそれに混じって来てみれば、マネージャーのお姉様にさらわれてベンチにお邪魔する羽目になる。
じりじりと陽が照り付けて、グラウンドに陽炎が浮かぶくらい暑いのに。
達海くんだけは汗をダラダラ流しながらも、涼しい顔でボールを蹴っているから。
そんな達海くんに目は釘付けになる。



試合開始のホイッスルが鳴った。
控えの選手が声を張り上げる。マネージャーのお姉様は、ベンチからキャプテンをどやしている。
応援部とチア部の声援も響き渡る。
わたしはベンチの片隅で、その雰囲気に圧倒されてしまった。
でも、ピッチに立つ達海くんはいつも通り。練習の時みたいに飄々としていて、キャプテンみたいに堂々と指示を出している。
そんな達海くんに魅入られて、暑さを一瞬忘れた気がした。



90分は長いようで短くて。
酷だけれど、勝敗が決まる時は必ずやって来る。







「由岐」

ピッチの端で達海くんが笑って、わたしを呼んだ。

「負けたよ」
「うん」


達海くん達は、三回戦で負けた。
1点差だった。悔しそうな顔は見せないで、いつものように笑っているけど。
いつもより声のトーンが少し低い。
きっと、誰よりも悔しくて、泣きたいのは、達海くんだ。







「由岐が泣くなよ」

試合が終わってグラウンドが夕焼けに染まり始めても、わたしはベンチでうずくまっていた。

「キャプテン達も引退するけど、いなくなるわけじゃないし」
「うん」
「由岐だっているし」
「わたし?」
「だからあんまり寂しくないよ」


不意に差し出された掌に掴まると、強く握り返された。


「帰ろうか」
「うん」
「由岐、好きだよ」
「え!?」


達海くんの発言には脈絡がない。でも嘘は言わない。
だから、困る。いちいち照れて、達海くんにからかわれる。
それがすごくクヤシイんだけど、やめてとも言えない。

達海くんらしい言動が、好きだ。







「どっか寄ってく?」
「良いよ」
「腹減ったからマックな」
「今日はビッグマック何個食べるの?」

細いくせに、大食いだと知ったのはつい最近。
ジャンクフードも甘い物も好きで、なんでも良く食べる。

「今日はアップルパイの気分。由岐も食べる?」
「うん」
「じゃあ1個分けてやるよ」





達海くんはマックのカウンターで、アップルパイを10個も頼んだ。
店員さんは怪訝そうな顔のまま、トレイに10個のアップルパイを積み上げた。
窓際のソファ席がお気に入りみたいで、来る度にそこに座るのが定番。
商店街の人波を眺めて、表情を緩める達海くんなんて、つい最近まで知らなかったのに。
いつの間にか、ずっと昔から知っている気がしてしまう。

毎日一緒にいられるって、凄い。

10個のアップルパイの内1つはわたしが貰って食べたけど、残り9個は全部達海くんが食べてしまった。
どこにそんな大きな胃袋を隠し持っているんだろう。慣れてきた光景だけど、何度見ても呆気に取られてしまう。


「今日の試合、由岐から見てどうだった?」
「みんな楽しそうだったよ」
「うん、楽しかった」

フットボール素人のわたしには、戦略や戦術についての意見なんか言える筈がなくて。
なんとなく感じた雰囲気の感想しか言えないのに、達海くんはそれを嬉しそうに訊いてくれる。

「由岐が見てて楽しいフットボールが、したい」
「わたしは達海くんが楽しめてたら、それで良いのに」
「だって由岐が楽しいって事は、見てる奴らも楽しいって事だろ?」
「そう、かな」
「俺は楽しいフットボールが出来たら、それで良いんだよ」
「勝ち負けは?」
「楽しいフットボールで勝てたら、もっと楽しいよ」



シナモンの香りと、達海くんの笑顔。
優しくって胸が苦しくなった。





(ドキドキが止まらない)
鼓動




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