放課後になっても陽は陰らず、暑い。
じりじりと照り付ける陽射しの下、わたしは第二グラウンドのベンチで達海猛の姿を追っている。

「ねー監督ー、俺さー、そっちのスペース空けてんの良くないと思うんだけど」

グラウンドの真ん中。みんなと同じユニフォームを着ているのに、必ず見付けてしまう。
教室でへらりと笑っていた達海くんの面影はなく、勝負師の顔をしていた。

「達海ィ、お前監督にタメ口使うなよ」
「だってさ、そこのスペースもったいなくない?」
「そうじゃなくて、言い方の問題だ」
「んー、じゃあキャプテンから言っといてよ」

体の大きな三年生をも圧倒する、その存在感の大きさ。

「達海くんってナニモノ?」

ベンチに座ったままぽつりと呟けば、傍にいたマネージャーのお姉様がくすくす笑った。

「そうね、達海くんって不思議だわ」
「やっぱりそう思いますか?」
「わたしたち三年生にも平気でタメ口使うし、試合中でも敵をおちょくるようなトラップするし。もう見ている方がハラハラするわよ」
「なんか、想像つきます」
「クラスでもあんな感じ?」
「そうですね。何考えてるか判んないです」
「でもね、達海くんが女の子をここに連れて来たのは、渡瀬さんが初めてよ」
照れ臭くて俯いた。耳が熱い。
「由岐ー、見てろよ」
「え?」
「由岐の為にゴール決めっからさ」

いつもの笑顔。わたしが苦手な笑顔。いつの間にか達海くんのペースに乗せられちゃうから、だいきらいな笑顔。
ゴールの前でわたしに向かって、意地悪な微笑み。

その次の瞬間、ゴールを見据える横顔からは驕りも笑みも消えた。また勝負師の達海くんに戻った。
ボールを蹴る音が耳の奥に残る。蹴り飛ばされたボールは鋭い速さで、ゴールネットを直撃した。

ビューティフルゴール。

仲間が駆け寄る。達海くんは自信に満ち溢れた、まるでプロ選手のような貫禄で仲間の祝福を受けている。
その祝福から逃げるように、わたしの前に走ってきた達海くんの首筋を伝う汗が、綺麗だった。

「見てた?」
「うん、見てたよ」
「そっか」
「うん」
「惚れた?」
「惚れてません」
「だってかっこよかっただろ、俺」
「さっきのゴールだけはね」
「厳しいな。でもさ」

首に掛けたタオルで、顔を伝う汗を拭った。達海くんの鋭い視線は、わたしを捕らえたまま。

「そんな真っ赤な顔で否定されても、説得力ないよ」

ニヒー。いつもの笑顔で。
汗まみれのタオルをわたしの頭に投げた。


「もうちょっと俺の勇姿見てけよ」
「送ってくれるなら、良いよ」
「ん、じゃあ。チャリ2ケツしよ」

ぽんぽんと大きなてのひらが、わたしの頭を撫でてから、広いグラウンドへ、また走っていった。


「ずるい」


達海くんの汗まみれのタオルで、熱くなった頬を隠すくらいが、わたしに出来るせめてもの抵抗。





(否定するひまもくれないあなたは、ずるい)
蜂蜜




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