猫のようなひと。
それがあなたの第一印象。
「由岐ー、ノート見せて」
だるそうに差し出された手。
ぺしっと叩けば、悪びれずに笑って見せる。
「達海くん、頭良いんだから自分でやんなよ」
わたしは、達海猛が苦手だ。
物凄く。
「良いじゃーん、減るもんじゃなし」
「やだ」
「けちだなー、由岐は」
「なんとでも言えば」
席がたまたま隣だった。
それだけの縁で、達海猛はわたしを『由岐』と呼ぶ。
馴れ馴れしい、と思いながらもどこか憎めない。
「達海くんとかさ、堅苦しいじゃん。気軽にタッツミーって呼んでよ」
ニヒーと意地悪く口元が笑った。
「サッカー以外にやる気ってないよね、達海くん」
―だからタッツミーで良い。
なんて戯れ事はこの際無視して。
「俺からフットボール取ったら、なんにも残んねーからな」
厭味を言ったつもりなのに。達海くんは、からりと笑った。
「そんなに、楽しいの?」
「んー。楽しいとは違うけど」
「うん」
「生きてるーって感じかな」
「うん」
あなたはもう、決めているんだね。自分の走るルートを。
確固たる意志で、突き進んでいるんだ。
「達海くん。ノート、貸したげようか?」
「まじ?」
「まじ。その代わりさ」
「うん」
「達海くんのフットボール、見学しに行っても良いかな?」
ぱちくりする目は、やはり猫のよう。
子供臭い制服集団の中で彼だけ際立って見えるのは、きっと覚悟の違い。
一人で生き抜く、覚悟。
ほんとに猫みたいだ。
「あっちーよ、外」
「うん」
「汗臭いし」
「覚悟してる」
「うちのヤロー共、女に飢えてるし」
「わたしじゃ相手にされないよ」
「俺に惚れちゃうかもよ」
意地悪な視線を感じた。
息を呑み、深呼吸をして。
「惚れさせてみれば」
精一杯の虚勢を張れば、達海くんは。
「わかった、放課後来いよ」
わたしの肩を軽く叩き、机の上に置きっぱなしだったノートを掻っ攫った。
「第二グラウンドだかんな」
(わたしの覚悟を試さないで)眩暈