「あらぁ、レイちゃん見て。綺麗なひとがいる!」
「うさぎ、ウルサイ。うーん、あれは無限学園の制服ね。あんまり見掛けない顔だけど…。亜美ちゃん、模試とかで会ってたりしないの?」
「多分ないと思うわ。もしかしたら最近引っ越して来たのかも。どう思う、美奈子ちゃん?」
「んー、アイドルも真っ青の美貌よね!羨ましいわぁ」
「確かに綺麗なひとだけど、立ち姿にスキがない感じがするな。もしかしたら武道の達人だったりして」
「やだぁ、まこちゃんたらー。あんな儚い美貌の持ち主が武道の達人なんて、小説じゃないんだからぁ!」
「そうだよね。あんな綺麗なひとが武道の達人とか出来過ぎだよなぁ」


セーラー服の女の子たちが、道端で賑やかに話している。
多分中学生だろう、顔つきはどこかあどけない。
素知らぬ顔で沙羅が彼女たちの横を通り過ぎれば、映画スターにでも遭遇したかのように、黄色い歓声が湧き上がった。




星の、輝きを感じた。






「沙羅、待った?」
「ううん。今来たところ」
「そっか。みちるが待ちかねてるよ。早く行こう」
「はいはい。はるかったら、いつの間にかみちると仲良くなっていたわね。あなたたち二人だけ、クラスも一緒になるみたいだし」
「仕方ないさ。沙羅は無限学園創立以来の期待の星で、僕たちは外部からの編入組なんだから。なんだよ、もしかして妬いてんの?」
「そうね。そうかも知れない」
「嘘臭いな」
「あら、本当よ?」
「そういう事にしておくよ」
「ありがとう。ふふ、楽しみだわ」
「え、何が?」
「無限学園の制服よ。はるかとみちるに似合うかしら?」
「僕に似合わない服なんてないと思うけどな」
「口が減らないんだから」

沙羅が僕の額を軽く指先で弾くから、僕の掌で沙羅の指先を包み込んだ。
冷たい沙羅の指先が、暖かい僕の掌の温度に染められていく。
しっかりと握った沙羅の指先に、僕は愛を感じた。






「姉様、はるか。遅くってよ」
「ごめん。沙羅が僕とみちるの仲にヤキモチ焼いてるみたいでさ」
「沙羅姉様、恋する乙女ですのね。とっても可愛らしいですわ」
「もう、みちる。からかうのはやめて頂戴な」
「からかってませんわ。わたしがはるかと意気投合したのも、沙羅姉様がいらっしゃるからですのよ」
「私がいるから?」

沙羅が不思議そうに小首を傾げる仕草が、僕とみちるをどれだけ魅了するのか。
全く以て、沙羅は自覚していない。

「僕もみちるも、沙羅が世界で一番愛しいんだよ。それこそ、君の為に命を投げ打つ覚悟をしたくらいさ」
「あなたたちがいなくなったら、私、悲しいわ」
「勿論、簡単に命を投げ出したりはしないよ。でも、沙羅を護り抜く為になら、沙羅の願いを叶える為になら、僕もみちるも、命は惜しまない」

悲しそうに陰る、そんな顔をさせたいんじゃない。
でも、僕は無条件に沙羅を愛している。
みちるは僕のことを好きだけど、それは愛ではない。
みちるが真に愛して慕っているのは、沙羅ひとりだ。
だからこそ、僕とみちるは急速に意気投合して打ち解けた。
沙羅を愛する者同士、ある種の同盟のような絆が芽生えて、闘いのパートナーとしての信頼関係を築くことが出来た。


沙羅、だから。
涙を見せずにただ微笑んで、闘いを見守ってくれる、沙羅だから。
沙羅が望む未来を、僕とみちるも心から望む事が出来た。













「あら、はるかは男子の制服なの?」
「こっちの方が気楽で良いからね。沙羅と制服デートも毎日出来るよ」
「女子の制服を着たはるかも、見てみたかったわ。実はかなりセクシーなプロポーションの持ち主なのに、出し惜しみするんですもの」
「それは沙羅だけが知っていれば良いことさ。ベッドの中で、ね」
「あら。わたし、お邪魔でしたかしら」

みちるの言葉に、恥じらって頬を赤く染める沙羅もなかなか愛らしい。

「いや、気にしなくて言いよ。それより、サイズはどうだい?」
「悪くないわ。これで姉様と揃いの制服を着て、同じ学校に通えるのね」
「そうさ。まさか沙羅と同じ学校に通える日が来るとは、夢にも思わなかったけど。いよいよ、だな」

紅潮した頬を白い指で覆い隠しながら、沙羅が厳しい目つきで頷いた。


「はるか、みちる。無限学園は恐らくデス・バスターズの隠れ蓑でしょう。闘いが本格化するまで、徹底的に敵の情報収集にあたって下さい。くれぐれも、気取られぬよう慎重に行動し、身を守ることを私に誓いなさい」

さっきまで恥じらっていた沙羅の面影は露ほどもなく、僕たちの目の前にいるのは、凛とした強さを内に秘めた、我らが主君だった。


「我らが主君クイーン・アポロニア・ムネメにして、我らが最愛の神崎沙羅。あなたの願いを叶え、あなたを悲しませない為に、僕たちは全力を尽くします」


祈るように昊を仰ぎ見た沙羅が、そっと僕とみちるの掌を握りしめた。


「あなたたちに、我が守護星太陽の慈悲がありますよう、私は太陽女神として、祈り続けます」


ごめんね、ごめんね、と。
沙羅が心の中で泣いている声が聞こえる。そんな気がした。





全力少女




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