「せつな、と呼んでも?」
「ええ、構いません」
リップロッドを握り締めたまま、固い表情を崩さずにわたしと対峙するせつな。
化学薬品の匂いがたちこめる応接室。
セーラー服のわたし。
せつなの左手首には、通信機が嵌まっている。
冥王星のマークが入ったそれを、試薬で焼けた細い指が落ち着かない様子で何度もたどっている。

「まず、あなたには冥王州のコンドミニアムに引っ越しをしてもらいます。これが権利書と鍵。あなたは気付いているでしょうけれど、この無限州には邪悪なパワーが満ちています。いざという時には冥王州、天王洲、海王州の3つの州から結界を張って邪悪なパワーが外部に漏れ出す事を防ぐ為にも、あなたには冥王州にいてもらわなくてはなりません。外部戦士の存在そのものを楔として打ち込む為にも」

テーブルの上に差し出した権利書を、躊躇いながらせつなの指がそっと受け取った。

「私たちに礎石になれと?」
「そうね、礎石がなくては結界は張れないわ。わたしは酷な事ばかり、あなた達に求めてしまうわね」

苦笑するしかなかった、お互いに。

「まだね、あなた達三人を会わせるわけにはいかないの」
「理由を伺っても?」
「タリスマンが出現するその時、あなたは初めて集結するのよ。場所はマリン・カテドラル」
「沙羅姫が授けて下さったちからを、使う、時」
「そう。戦士ではないわたしが戦士の闘いに介入する事は赦されざる行為だから、あなたに託すしかありませんでした」
「それが私の使命なら、私は喜んで受け入れます。ただ、」
「ただ?」
「愛していらっしゃる方の悲劇が待っている事を知っていて、何故そうまで穏やかにいられるのでしょう?」
「はるかのことね」
「ええ」

正直、答えに詰まった。
真実を口にする事が怖かった。
はるかの死をも視てしまったわたしは、それでも大局のコマを進めなければいけない。
愛するひとの為に立ち止まってしまうような女神を、ひとは女神とは認めないだろう。

「せつな。わたしは太陽女神なの。私心を優先することは赦されないわ。どんな犠牲を出しても、運命は変えられないのよ」
「はい」
「だから、だから」


どうか、あなたの手ではるかとみちるを救って。



せつなは口許に微笑をたたえて、そっと頷いた。




約束




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