「無限学園高等部2年、芸能コース伝統芸能マスタークラス・プロフェッショナルコース経営戦略クラス所属の神崎沙羅です。大学部理学部1年・基礎物理学科理論物理学専攻の冥王せつなさんに面会したいのですが」

運命は動き出した。
『先読み』の力を手にしたわたしは、ただただ視える未来を現実にしていくことしか出来ない。
怖いから、なんて理由で逃げることは赦されない。
だってわたしは、全知全能の女神だから。
視えてしまう未来に踊らされてはダメ。
大切なのは今と云う現実。
どうしても運命が動くのならば、せめてこの手で運命の針を進めてやる。

だから、わたしは、今、此処に居る。
セーラー戦士にもなれないわたしの戦闘服は、無限学園のセーラー服で充分だ。


「神崎さん?研究室へどうぞ。汚い所ですけど」

深いマゼンタ色の瞳。
深い闇を想像させる長い髪。
柔らかな微笑みを口許にたたえたその人は毅然とわたしの前に現れた。

「有名人の神崎さんが訪ねていらっしゃるから、驚きましたわ。私になにか余程のご用でも?」
「前置きは省きます。あなたはご自分の運命を、役割をご存知ですか?」
「…あの不吉な夢の事ですか?」
「ええ、薄々気付いているかも知れないけれど、あなたは戦士よ。わたしや月のプリンセスを護るべき運命の許に生まれた冥王星の戦士、セーラープルートなの」
「私が、戦士…」
「すぐに闘えとは言わないわ。けれど覚悟を決めて頂きたいの。世界を沈黙から救う為に闘う覚悟を」

我ながら酷だと思う。
何も知らない民間人をも戦士として覚醒させる。
それがわたしに架せられた罪ならば、わたしはどんな罰でも受け入れて見せる。

「あなたの為のリップロッドと通信機よ」

研究室の応接セットの上に剥き身で並べた。

「あの、私には必要ありません。お引き取り下さい」
「いいえ。必ずあなたは必要とするわ。時の番人、セーラープルート。あなたがこの時代に転生したのは偶然でも奇跡でもない。この時代が、そして太陽女神クイーン・アポロニア・ムネメが、あなたを必要としたからよ」
「クリムゾン・プラチナム、の太陽女神クイーン・アポロニア・レトの姫君、沙羅姫様…」
「そう。外部太陽系の戦士たちを太陽の眷族として迎え入れたクリムゾン・プラチナムの現当主はわたし、お母様の跡を継いだクイーン・アポロニア・ムネメよ」
「思い出しました。未来と過去を繋ぐ時空の扉の番人をしていたこと。太古の昔から、太陽女神に焦がれて辺境の地で外敵を防いでいたこと。あれは夢ではなかったのですね」
「ええ。ごめんなさい。本当は何も知らずに平凡な人生を歩ませてあげたかったけれど、そうもいかなくなったの」
「え、」
「あなたの他に二人。ウラヌスとネプチューンが覚醒し、聖杯を得るべくタリスマンを探しています」
「タリスマン…」
「もう判っているでしょう?」
「その一つは私が持っているガーネット・オーブ、ですね」
「そう。そして近い未来、あと二つのタリスマンも出現するでしょう」
「沙羅姫はなんでもご存知なのですね」
「ええ。わたしは全知全能の太陽女神ですから」

隠し持っていたブラッディー・ローズに触れる。
緋色のドレスにティアラ、そして首にはブラッディー・ローズ。
クイーン・アポロニア・ムネメへの変身に導かれるように、冥王せつなはセーラープルートへと姿を変えた。
ガーネット・オーブをしっかりと握り締めて。

「あなたには特別な力を授けます。残り二つのタリスマンが見付かった時、あなたの力でタリスマンからピュアな心の結晶を取り出すのです」

ガーネット・オーブの赤い宝石に右の手が触れる。
左の手はブラッディー・ローズの中心に触れる。
古語の呪符を唱えると、ガーネット・オーブの赤い宝石は輝きを増した。

「これで大丈夫よ。後はあなたに掛かっているの。その時が来たら、お願いね」


「クイーン・アポロニア・ムネメの御意と在れば、このセーラープルート、命に代えても役割を全う致します」


わたしの足元にかしづくセーラープルート。
仲間が増える毎に孤独感が増していくのは、何故だろう。





Chai Maxx




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