みちると沙羅と僕。
ゲームセンターを出ると、怪しい気配がふたつ、明らかにあとをつけている。
沙羅とみちるも承知しているようで、顔を見合わせて苦笑した。

「折角お知り合いになったのだから、お茶にお誘いしてはいかがかしらね」
「ふぅん。普段は他人を遠ざけたがる沙羅の言葉とも思えないね」
「あら、はるか。姉様には何か思惑がおありなんじゃなくて?」
「そう、ね。大した思惑なんてないのだけれど。少し興味はあるわね」
「沙羅がそこまで言うなら、誘ってみようか」
「あの調子じゃ、誘わなくてもついて来るんじゃなくて?」
「それもそうだな。知らん顔して、そこのパーラーに誘い込んでみようか」
「フルーツパフェ、あるかしら」
「沙羅姉様ったら、案外可愛らしいものがお好きなんですのね」

自然にパーラーに入れば、当たり前のように僕たちの前に座った二人。

「まだお名前もうかがっていませんでしたわね。よろしかったら教えて下さる?」

ソファに腰を落ち着けて、めいめいにオーダーした頃。
沙羅は僕の隣で静かに微笑んだ。

「あたしは、十番中学2年の月野うさぎですぅ」
お団子頭の子が、華やいだ声で名乗りを上げる。
青いリボンのセーラー服は、確かに十番中学のものだった。
「あたしは愛野美奈子!芝中2年でぇすっ」
赤いリボンに真っ直ぐな長い髪。
そこにいるだけで、場を明るくするような雰囲気を持っている女の子だ。
「月野さんと愛野さん」
沙羅が確かめるように二人の名前を呟けば
「名前で呼んで下さい」
と、お団子頭が人懐っこく笑った。
「お言葉に甘えて、そうさせて頂こうかしら」
「ぜひ!」
二人の満足げな顔に、僕たちはつられて吹き出した。
「元気がよろしいのね。わたしは海王みちるですわ。隣が天王はるか、それから神崎沙羅さん。三人とも無限学園の高等部に通っていますのよ。わたしとはるかは1年。沙羅姉様は2年よ」
「はるかさんと、みちるさんと、沙羅さん」
美奈子が僕たちの顔を見つめながら、名前を反芻する。
「折角お見知りおきになれたのだから、うさぎと美奈子にはこれからも仲良くして頂きたいわ」
「あたしたちこそ、無限学園のひとたちと知り合えてラッキーって感じです!」
少女特有の甲高い声が、パーラー中に響き渡った。
「美奈子はとても元気で、私まで楽しくなるわ。うさぎは不思議な光を持っているのね、生まれ持ったものなのかしら」

沙羅の瞳が大きく動くのを横目で僕は見ていた。
ドギマギするお団子頭を、真っ直ぐに見据える強い瞳。
そんな眼で他人を見ることなどなかった沙羅の異常に、僕は息をのんだ。

「ひかり、ですか?」
「ええ。とても素敵な光ね。大切になさった方が良いわ。きっとあなたの光が役に立つ日が訪れるから」
「沙羅さんって神秘的ですね。占いとかするんですか?」
「占いはしないの。わたしは未来を予測する総てを否定するわ」
「、どうして?」
お団子頭の声が掠れている。
さっきまでの元気を忘れたように静まり返っていた。
「だって、決められた未来なんて、つまらないじゃない?何も決まっていないから、未来を楽しみにできるのよ。知らぬが仏って言葉もあるし」
クスリと嗤った沙羅の横顔は、どこか自嘲気味で。
僕は不意に怖くなった。
僕が知らない未来を知っているだろう沙羅が背負う重荷の大きさを、今更思い知った気がする。
「流石、無限学園のひとですよね!レイちゃんよりずっとミステリアスで素敵!」
美奈子の無理につり上がった声が、パーラー内に響く。
「レイちゃん?」
「あ、友達っていうか、仲間っていうか…」
「そう。まだ仲良しの方がいらっしゃるのね。今度は皆さんにお会いしたいわ」
「みんなも喜ぶと思います。沙羅さんもはるかさんもみちるさんも素敵なひとたちだから」
「あら、ありがとう。うさぎと美奈子も可愛らしくて素敵よ?」
「ありがとうございますぅ」
照れる中学生コンビと、穏やかに微笑む沙羅。


さっきまでの厳しい顔つきの沙羅は幻だったのか。
僕の思い過ごしなら、それで良い。
でもおさまらない胸騒ぎは一体、何なのか。
今の僕には、まだ判らない事が多すぎる。
良く知っている筈の沙羅の姿が、遥か向こうに在るように思えて。
僕は沙羅の指先を咄嗟に掴んだ。
冷たい指先を掴んでも消えない胸騒ぎに、僕の脳裏では沙羅をいつか失うような、そんな嫌な予感がよぎった。



沙羅は手離さない。
どれだけ多くの夢を手離しても、沙羅だけは絶対に。




仮想ディストピア




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