「タリスマン、ね」

沙羅が僕の部屋で、ぼんやりと机に肘をつきながら、ブラッディー・ローズをしゃらりと鳴らして呟いた。

「3つのタリスマンを集め、迫り来る沈黙を防ぐことが僕らの使命、そうだろ?」
「そうね、確かにその通りよ」
「ん?なんか含みがあるみたいだな」
「タリスマンを集めたら、何が起きるか知ってる?」
「何って…メシアが覚醒して、世界を救うんだろ」
「救世主がいれば、メシアさえいれば、たった一人の存在で、世界は救われるの?」
「沙羅?」
「ねぇ、はるか。考えて欲しいの。犠牲は仕方ないと言った、あなたのどこまでが本心なのかを」
「何を今更…全部に決まってるさ」
「誰が犠牲になっても、どれだけ犠牲が増えても、絶対に後悔しないと、あなたは言い切れる?」
「急にどうしたんだい?変だよ、沙羅」
「そうね、私少し変かも。もしかしたら、月のプリンセスとの再会が近い予感がする所為、かしら」

震える沙羅の指先を、僕の掌で包み込んだ。
僕に出来ることは、沙羅の冷えた指先に温もりを分けるくらいなもので。
逆立ちしたって、僕が沙羅の苦労や重圧を肩代わりなんて出来る筈がない。

「月のプリンセス?」
「そうよ。あなた達が護るべき、穢れのない白い月のプリンセス。もうすぐ会えるわ」
「護るのは沙羅だけでイイのにな」
「その私が、太陽女神が、照らすと決めた白い希望よ。護ってあげて」
「仕方ないか、沙羅の頼みなら」
「ごめんなさい。私、あなたの為に祈ることすら出来ない」
「祈りを捧げるべき神様が、沙羅だからな。代わりに僕が沙羅の為に祈るよ」

光と闇が溶け合って成り立つ世界の総てを、沙羅は視ていなければならない。
どんなに視たくなくても、眼を背けることは赦されない。
皆の祈りを一心に受け止める運命を与えられた、孤高の太陽女神。
綿々と続く命の営みを永遠にも等しい間、照らし続け見届けて繋いでゆくさだめを負わされた、銀河系唯一の存在。
代役もなく独りきりで、昏い闇を光りで照らす使命を受け継いだ。

沙羅の眼は、自分が照らしている世界がどんなふうに視えているのだろう。
僕が見ているのと同じように、あたたかな光りが視えていれば良いと、願わずにはいられない。





僕らのセンチュリー1




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