求めることが愚かでも






「素肌にスリップって、誘ってるよな」
「それはあなたがよこしまだからよ」
「もう軽口はお仕舞いにしよう」



噛み付かれるようなキス。
体の芯が痺れるようなキス。
器用に舌先が、わたしの歯列をなぞって煽る。



腰のラインを何度も撫でながら、飽きずに唇を吸われた。
伏せた睫毛が長くて綺麗だと、薄く開いた視界の中で見とれた。





翼の掌に触れられた脚が熱い。
頬も、首も、額も、余すところなく翼の唇が這っていく。
鎖骨に甘く噛み付かれて、体が跳ねた。




「すっぴん、綺麗だ」




このタイミングで言わないで。




窘める前に、脱がされたスリップの下の胸を紅い舌が舐めて。
抗議する機会すら、わたしは失った。





抵抗のつもりでバスローブの紐を解けば、獰猛な獣の眼をした翼がわたしを見ていた。








素肌が触れ合う。
体毛が薄いから、肌の感触を直に感じる。
体温が上がる。
果てのないくらい熱くて、体をよじるけど逃げ場はない。





細くて骨張っている指が、大切なものを愛おしむようにわたしに触れた。
核心を突かずに濡れたそこを、確かめるように何度も撫でる。




翼の、が太腿に押し付けられる。
堪らなくなってそっと握り込めば。


「もっと」


なんて囁くから。









翼の体を押し込んで、体勢を逆転させた。






「絶景ね」





白いシーツに押し付けた細くて筋肉質な体と、欲を孕んだ熱っぽい翼の眼。





「なんで俺の上にいんの?」



「だって、翼が可愛く見えたから」


「それは褒め言葉じゃないだろ」


「褒めたつもりよ、ねぇ」





もう、だまって。






唇を押し付けて舌を絡める。
こんなにも翼を欲しがる浅ましい体が、身の置き所を探して。



翼の、を握り締めたまま、体を重力に任せた。








「ん、ゥ…」







きつい。







くちゅりと濡れた音と、翼の微かな呻き声。
高鳴る鼓動と、上昇し続ける体温。








「遥香、あつい」








「わたしだって、あつい」








喘ぐ吐息を噛み殺せば、翼が愉快そうに笑った。








繋がったまま、またポジションを逆転されて。
またシーツの海に体が沈んだ。





「っ、」





吐息が漏れた。






「唇噛むなよ」





翼の呼吸が荒い。
胸元に感じる吐息が熱い。







翼の指がわたしの唇に触れて、こじ開けた。








「我慢すんな」








眼だけで返事をすれば。





勢い良く突き上げられる、翼の熱。






「ん、あっ、」






声にもならない喘ぎと、目の前の背中に縋り付いた腕に、翼は満足げにわたしの瞼を舐めた。



どこにそんな余裕があったんだろう。








激しくなる抽出。



繋がったところが熱くて。









「つばさ」






「うん」








耳たぶをかじられたのと同時に、目の前が白くなった。









翼の体が大きくしなったところで、わたしの意識はかなたへ飛んだ。

















「まさか翼に意識飛ばされるとはね」




喉の奥が渇いている。




「起きぬけに悪態吐く元気があるとはね」



苦虫を噛み潰したみたいな顔で、ペットボトルの水を渡してくれた。





「うそ。相性が良いのね、きっと」




ラッパ飲みした水の冷たさが、体に染み入る。






「なかった事には、ならないわね」
「そりゃ無理だな」
「判ってる、もう覚悟は決めたもの」
「覚悟?」
「あなたを好きで居続ける覚悟、かしら」「そんなもの」
「必要なの、わたしには」






翼は仕方ないな、と笑った。








困ったように笑った顔が、好きだ。







「遥香」
「なぁに」
「言わなかったけど、俺日本に戻って来るから」
「は?」
「昨日やっとフロントから了承が取れて、日本での移籍先も決まった」
「それで一週間もかかったの?」
「急だったから説得するのに戸惑ったけど、これで一緒に苦しんでやれるだろ」
「まさか、その為?」
「想像に任せる」






翼の照れた顔を初めて見た。






明日が休日で良かった。





シーツより滑らかな翼の体に絡み付いて、眼を臥せた。










(あなたを求めた事が愚かだったなんて、そんな悔いはない)






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