甘い背中





けだるい朝。


目を開ければ、そこには裸の遥香。





そんな日常が来るなんて、思ってもいなかった。





さわれる距離にいるんだ、って事がこんなにも俺を安心させる。









「どうしたの?」



むくりと起き上がった遥香が、おもむろに俺の腕を掴んだ。




「なんか、慣れないな」

「なにが?」

「遥香が、隣にいる事」

「そんなの、わたしはもう慣れたわ」




すっぴんできつさの欠片もないのに。
どうしてこんなに綺麗なんだろう。






「ああそうだ。今夜ね、柾輝に会うわ」

「俺も行く」

「ひとりで良いから」

「でも」

「大丈夫、柾輝は良い男だもの」




なんでもない事のように微笑むから。
思わず頷いてしまう。





「翼がね、心配するような事は何もないのよ」

「うん」

「守って貰うほどね、わたしも弱くないし」

「うん」

「それでも守って欲しい時は、ちゃんと助けてって、言うから」

「うん」





遥香の裸の胸が、俺の素肌に擦り寄って来て。






だいじょうぶ、と抱きしめられた。








「強いな、遥香は」

「強くは、ないんだよ」

「そうか?」

「ただね、わたしだって、翼を守りたいって思っただけなの」

「それで遥香が傷ついても?」

「良いよ。翼を失うわけにはいかないから」





眉毛だってないくせに。




しっかりしてるくせに。





俺に向かって笑う遥香が、儚く見えた気がした。










「無理、すんなよ」

「判ってる」

「泣く前に呼べよ」

「一人じゃ泣かない」

「俺を置いていくなよ」

「翼こそ、わたしを置いていかないでね」




俺の真剣な気持ちを受け止めた上で、冗談にしてしまう。






本当に遥香には敵わない。







「今夜、車で迎えに来てくれる?」

「良いけど、明日仕事だろ」

「翼のうちに泊まって、朝も翼に送って貰うの」




良いでしょ?と、上目遣いに見られたら。
もう堪らない。





「わたしの好きなひとは、翼は、こんなに良い男よって。自慢したって良いじゃない」










不意に愛しさが込み上げてきて。
素肌の背中を掻き抱いた。









(なんて、甘美な背中)





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