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「あぁ…例の件でか?」
「え?…あ、うん!そうそう!あれ、僕の勘違いだったみたい。だから、もういいんだ。ごめんね、紛らわしくて。」
「え、しかし…」
「峰がいいって言ってんだから、もういいだろ。」
ボソッと呟いた一言に鬼島が怪訝に眉をひそめた。
「…糸島、お前知ってるのか?」
「…別に二人だけの秘密って訳じゃないんだろ?」
「鬼島くん、もういいんだ。何でもなかったんだから。」
鬼島は俺と峰を交互に長い間見つめた後に、ふぅっと静かに息を吐いた。
「…分かったよ。この件はもうこれで終わりだ。それでいいんだな?峰。」
「うん。心配してくれてありがとう。」
真弓は鬼島に目尻を下げて微笑んだ。
…そうだ。真弓は誰にだって優しく笑うんだ。
俺にだけじゃない。
「ところで、糸島。」
「何だよ。」
「さっきから、お前凄い睨まれてるけど。」
ちょいちょい、と鬼島が後ろを指差す。
後方に目を向けると、獅子崎と一瞬目が合ったが、すぐにそれは反らされた。
「お前、何か獅子崎から恨みでも買ったのか?」
「凄い睨んでたね…。」
不良に免疫の無い真弓は顔を蒼白にさせていた。
「…あぁ。アレ、別に睨んでる訳じゃないんだよ。」
獅子崎は尚も俺たちの様子をチラチラと窺っていた。
「…ただ、彼奴は目つきが若干悪いだけだから。」
「本当かよ?」
「ちょっと、からかってやるか。」
「今お前、凄い悪い顔してんぞ。」
既に呆れ顔の鬼島と、怯え顔の真弓を置いて、獲物に近づいていく。
距離が近づいていく度に、獅子崎はビクビクと大きな身体を震わせていた。
最近、言語の枯渇しているこの不良に絡むのが俺の楽しみだったりする。
不良に向かってズンズンと歩を進める度にキョロキョロと忙しなく動く不良の眼、顔色もすっかり青ざめてしまって…可哀相に。あぁ、面白い。
「おい」
「ひぅっ」
机を軽く蹴り上げると、目の前の獅子崎は小さく悲鳴を漏らした。
「何さっきからじろじろ見てんだ」
獅子崎は目つきが悪いと言われている鋭い目をめいいっぱいに広げ、ジワジワと顔色を赤く染め上げた。
「…見て、ない…です。」
「嘘つくなっ、朝からずっと俺の事見てたろが。」
獅子崎の目が急に泳ぎだし、眉毛をハの字に歪める。
「…見てない、ってば…」
あくまでも白を切るつもりか、こいつは。
何かこの不良を虐める良い方法はないか、と思案していると、目の前に制服がパッツパツになっている不良の胸部が見えた。
何だこいつ…男の癖してやたらデカくないか?
制服が悲鳴あげてる。
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