「なあ我妻。最近桑島彼氏出来たの?」

11月も終わりに差し掛かったある日。友人がそんなことを聞いてくる。

「は?なんで」
「いやどう見ても可愛くなったじゃん、桑島」

そう言われて凛に目をやる。
いつからか分からないけれど凛は炭治郎や伊之助と行動することが減り、女子達と楽しそうに談笑している。一時期は顔色が悪かったが忙しさに慣れたのか、今は顔色の悪さはなく女子達と楽しそうに話しているその姿は確かにとても可愛らしくて……
そうだ、俺は、一緒に暮らしているのに凛のことをこんな風に見るのは随分と久し振りだった。それくらい凛と俺の生活リズムは今は違っていて、朝は俺が寝ている時に凛は新聞配達のバイトに出てしまい、夜は俺が寝ようとする時間に帰ってくる。もう、一緒に暮らしていないようなものだ。

「桑島と付き合うのは我妻だと思ってたからなぁ」
「は?なんで」
「お前らすげー仲良かったじゃん」

そう。俺達は仲が良かった。いや、別に今も悪いわけでも喧嘩をしているわけでもない。ただ、以前と比べて一緒にいる時間が減っただけで…

「でも我妻に彼女が出来てから結構桑島告られてたよな。全部断ってたけど」
「え?」

友人の言葉に面食らう。
そんなの知らなかった。凛、告られてたのか。
俺の知らないところで、だんだんと凛は女になっていく。当たり前だ。凛だって歳頃の女の子なんだから。
善逸、と。笑って呼ぶ凛も怒って呼ぶ凛も泣きながら呼ぶ凛も。俺しか知らなかった凛をいつか、俺の知らない誰かが知ることになるんだろうな。
嫌だなんて言う資格はない。俺は凛の、ただの家族だから。

「そろそろクリスマスだしなー、俺もワンチャン桑島に告ってみよっかな!」
「はぁ?絶対駄目」
「なんでだよ!我妻は彼女がいるからいいけど、俺は独り身で寂しいんだよー」
「…でも、凛は駄目」
「過保護だなぁ」

過保護。そう、俺は過保護だから生半可な気持ちで凛に告白なんてしてほしくないし、凛のことを好きじゃないやつが凛の彼氏になるなんて許せなかった。
ただ、それだけなんだ。


***


「善逸君、クリスマスは一緒に過ごせる?」

そしてクリスマスが来週へと迫った日に彼女は可愛らしく俺に聞いてくる。
クリスマスは毎年凛がご馳走を作ってくれてケーキを焼いてくれて。爺ちゃんと三人で毎年過ごしていたんだ。でも俺には彼女が出来て、いつもクリスマスは彼女がいる奴が羨ましい!って騒いでたんだけど、まさか自分が言われる立場になるなんて去年の今頃は思ってもいなかったな。

「うん、一緒に過ごそう」

そう言うと頬を赤める彼女は可愛らしかった。



「ごめん、今年は彼女とクリスマスを過ごすよ」

俺が凛に何かを伝える時はいつも深夜で、凛が帰ってくるのを待つのを怖いと思うようになった。だって、俺が寝ないで凛のことを待ってる時は大抵伝えにくいことを伝えなければいけないから。
凛は驚いた様子もなくそっか、と呟いて

「なんで謝るの?楽しんできてね」

とやっぱり昔とは違う笑顔を向けられるのだった。


「え?凛今日バイト休みなの?」
「そ。私はお爺ちゃんとクリスマスを満喫するから善逸も楽しんできてねー」

クリスマス当日。いつもはいない時間に家にいる凛に驚き、そして今日約束を入れたことを後悔した。
俺は本当に夏休み以来凛と一緒に家で過ごせていない。凛ともっといっぱい喋ったり、ご飯を一緒に食べたり、一緒に笑ったりしたい。
もし今日俺が約束をしていなかったら凛とそういう1日が送れたのではないか?

「凛、明日はバイトなの?」
「明日からはまたバイトだよ」
「なんで、なんで今日は休んだの?」
「バイト先が今日は人がいっぱいだったから」

だから私が外れることになったの、と凛は無慈悲な返事をする。なんで今日なんだ。昨日でも明日でも俺は家にいれたのに。凛、最近全然俺と過ごせてないじゃん、俺だけが寂しいの?と。なんだか段々腹が立ってきた。
いいよ、そっちがその気なら俺だって彼女とクリスマスを楽しんでくるもんね。

「…ふーん?ま、俺は彼女と今日はラブラブなクリスマスを過ごしてきますけどね?」
「わ、リア充発言!さっさと行っておいで!」

凛に手をひらひらと振られ、爺ちゃんには楽しんでくるんじゃぞ、と優しく微笑まれる。
毎年一緒にクリスマスを過ごしていた2人を置いて、俺は彼女の元へと向かう。
それが今の俺の日常で、俺の選んだ選択だった。



「…凛、いいのか。今年のクリスマスはお前にとって…」

善逸が出て行った後、お爺ちゃんは私の顔を心配そうに覗き込みながらそんなことを口にする。
いいの。これが正解だから。大丈夫、善逸ならきっと彼女さんとうまくいくよ。善逸は優しくて、格好良くて、私の初恋の人なんだから、断言出来る。

「お爺ちゃん、ケーキはちゃんと焼くからね」

でも今年は善逸がいないから小さいカップケーキにしようかな。食べ切れないのも、食べさせすぎちゃうのも良くないから。
そんなことを考えながら、台所へ立ちエプロンを身に付ける。

「ばかみたい」

バイトの休みは1ヶ月前には申請しなきゃいけないんだよ。
この日はもしかしたらって。毎年3人で過ごしてたからほんの少しだけ期待をしてバイトを休みにしてたのは内緒。



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