凛と思いが通じあった後、じゃあ一緒に帰ろうと興奮気味で言えば「バイトは一月先まで辞めれないし、引越しの手続きもしなきゃいけないからすぐには無理」と当たり前だけどとても残念な返事が返ってきた。
すぐに凛との日々が戻ってくると思っていた俺は残念で仕方がなくて落ち込んでいると「ちゃんと帰るから」と凛は俺の頭を撫でてくれて、その手つきの優しさが嬉しくて仕方がなかったし一緒に帰れないのは悲しくて名残惜しかった。

凛に新しいスマホの番号やIDも教えてもらい毎日連絡するから!と言うと凛は恥ずかしそうに頬を緩めて、その日から本当に毎日欠かすことなく連絡してきた俺に凛はいつも電話越しに楽しそうに声を弾ませていた。

そしてニ月後。
待ちに待ったその日がついにやってきた。
家でなんて待っていられず、駅まで迎えにいくと大きなキャリーケースを持った凛の姿を見つける。それだけで心臓が馬鹿みたいにうるさく喜んでいて、顔に熱が溜まるのも分かる。
ああ、俺本当に凛が好きなんだな。

「家で待っててくれて良かったのに」
「俺が1秒でも早く会いたかったの!ほら荷物持つから貸して」

そう言って荷物を凛から受け取ると凛が頬を赤らめて俯くので俺も釣られて顔を赤くするのだった。



いやもう、結構大変だったんですよ私も。
あんなに一大決心をした私の新境地の一人生活は僅か半年とちょっとで幕を閉じ、善逸の捨て身のような告白にまんまとやられて二度と戻ってこないと思っていたこの町に戻ってくることになった。

「凛、手繋ご?」

そう言ってちょっと頬を染めながら善逸が手を差し出してくる。
荷物を持つと言ってくれたり、手を繋ごうと言ってくれたり。どうやら善逸の告白は夢じゃなかったみたいだ。あれだけ毎日『好き』だの『早く会いたい』だの電話越しで囁かれていれば嫌でも実感してしまう。何回も都合の良い夢を見ているんじゃないか?と頬をつねったけど夢じゃなくて現実だというのだから驚きだ。

おずおずと手を繋ぐと善逸が愛おしげに私を見つめてくるから恥ずかしくて、つい目を逸らしてしまうと繋いでる手をぎゅ、ぎゅと何度も閉じたり開いたりしてくる。まるでこっちを見てほしいと言っているようでもう一度善逸のほうをちらりと見ればやっぱり私のことを幸せそうな顔で見つめていた。


「お爺ちゃん、ただいま。戻ってきちゃった…」
「おかえり凛。嬉しいぞ、やっぱり儂も寂しかったからの」

こうして私達3人の日常が戻ってきた。
ううん、少し違うかな。
きっと今日からは似ているようで今までとは違った毎日が始まるんだろう。

「凛」

善逸が愛おしげに私を見つめる。

「大好きだよ」


その言葉を、ずっと夢見ていた。


***


「あれ」

朝ご飯を作り終えて机に4人分の食事を並べると既にそこに座っていた善逸が美味しそ〜!と頬を緩ませる。善逸は私が料理をしているのを見るのが好きみたいでいつも誰よりも早く食卓についている。そんな善逸のことが愛おしいのは私も同じだけど、私は善逸に恒例の言葉を投げかけた。

「早く食べさせないと幼稚園のバス、また間に合わないよ?」
「あ!本当じゃん!爺ちゃんと遊んでるのかな?」

おーい、と善逸が呼びに行ったのはお爺ちゃんとその孫…そう、私達の子供である。
子供が産まれた時はそれはもう凄かった。お産の時なんて私よりも善逸の方が絶叫するし泣くし、孫を抱いたお爺ちゃんがあんなにもぼろぼろ泣くなんて思ってなくて産んだ私が置いてきぼりになるほど2人が大泣きしたのだから。
そんなことを思い出して微笑んでいると善逸と2人が食卓へとやってくる。

「ママ、ごはんたべる!」
「爺ちゃんも食べるぞー」
「あ!卵焼きは俺が食べるの!」
「はいはい、沢山作ったからいっぱい食べてね」

そして4人で机を囲んでいただきます、と手を合わせて食事をする。
いつも通りで、幸せな日常。その光景に頬を緩めていると善逸がそんな私に気付いたのか満面の笑みを浮かべる。私ばかり好きだったはずなのに、いつの間にか善逸からも溢れんばかりの「好き」を感じられるようになって幸せで仕方がない。

「おはようございます、我妻さん」
「おはようございます。今日も一日よろしくお願いします」
「ママ、パパ、おじーちゃん!いってきまーす!」
「はいよ〜いっぱい遊んで来いよー!」

いつも通り3人でお迎えバスの見送りをして、善逸がさて。と声をあげる。

「そんじゃあ俺も行ってくるね」
「いってらっしゃい、善逸」
「………」
「? 何?」

善逸が私の目をじっと見てふっ、と笑った後、キスをしてくる。朝からだというのに、深いやつをしてくる善逸にこら!と体が熱くなるのを誤魔化しながら顔を離すと善逸は悪戯っぽく笑って私の長くなった髪を手に取ってそれにキスを落とした。

「2人目も早くほしいね?」
「もうっ、朝から…」
「仕事がなければ一日中でも大歓迎なんですけど?」

「善逸も男だったというわけじゃな」

その声にはっとして顔を向けるとお爺ちゃんがうんうん、と頷きながら生暖かい笑顔で私達を見ている。
そうじゃん!3人で見送りをしたんだからお爺ちゃんがここにいるのは当然で…!

「ぜ、善逸!は、はやく!仕事、遅れるよ!?」
「えー?もうちょっと……」
「ば、ばか!お爺ちゃんが……んぅっ!」

がぶり、と私の口にかぶりつきながらも満足そうに微笑む善逸を拒むことなんて出来ない。
だって私はこんなにも──旦那さんのことが大好きなのだから。


家族を知らなかった私達は、誰よりも暖かい家族に囲まれて今日も笑い合うのでした。






[ 14/15 ]





×