俺は大学生になった。
大学一年目は思いのほか忙しく、慣れない授業等に奮闘しながらもどこかつまらない日々を送っていた。
彼女とも別れ凛にも愛想を尽かされ捨てられた男だ。何も楽しくない。もうどうでもいいとさえ思っていた。


「それで?善逸は結局どうしたいんだ」

炭治郎と伊之助にはそれはもう迷惑をかけた。凛が家を出て行ってしまったことを二人に言うと二人ともとても驚いて行き先は?と聞いてきたから凛は本当に爺ちゃん以外には誰にも言わずに姿を消したことが分かった。
凛はスマホも解約していたようで誰一人連絡を取ることが叶わなかった。
凛がいなくなったことにより泣いて、落ち込んで、泣いてを繰り返す俺を炭治郎は困ったようにしながらも慰めてくれて伊之助には叱られてしまった。

「紋逸!お前がどうしたいか分からねえうちは俺達もどうしていいか分からねえんだよ!」

と。そう言われて俺も自分がどうしたいのかを見つめ直せたのだから感謝しかない。
俺は、俺は……


「俺、凛にもう一度会いたい」

炭治郎と伊之助と昼休みに合流して少しした後、俺はそう口に出した。
炭治郎と伊之助はまるで俺がそう言い出すのを分かってたような、待っていたような顔をする。
俺は凛に会いたい。会って、それで…

「凛に会ってどうするんだ?」

炭治郎に痛いところを突かれる。
俺は凛に会って、そして、どうするつもりだというのだろう。どうして俺に何も言わずにいなくなったのかと問い詰めるのか?それとも帰ってきてほしいと縋るのか?
俺はどうして、凛にここまで執着するんだ?

「紋壱、アイツはお前のなんなんだ?」

凛は、凛は俺の家族だ。
母さんに捨てられた俺を。いや、捨てられる前から俺に凄く良くしてくれて。本当に捨てられたあの日。俺の家族はこの世界のどこにもいなくなってしまったんだと悲しくなった。だけど、そんな俺に手を差し伸べてくれて家族になってくれた凛。
凛と過ごす毎日が楽しかった。凛は優しくて、ご飯も一緒に食べてくれて、いつもしょうもないことで笑って、たまには喧嘩もしたけどいつも仲直りも出来て。
凛のいる生活が当たり前で、この生活が崩れる日が来るなんて思ってなかった。凛と爺ちゃんがいれば俺はそれだけでよくて、俺は凛の全部が好きで────好き?

「俺は……凛が……好き?」
「お、やっとか」
「でも、凛は、俺の……家族、で…」
「善逸は凛が家族だから好きなのか?」

俺は、凛が好きだ。
笑った顔も怒った顔も泣いた顔も。なんなら寝顔だって何だって好きなんだ。
それは家族だから?じゃあ俺は凛と家族じゃなければ凛のことを好きじゃないのか?
………違う。俺は、初めて凛が俺のことを見つけてくれたあの時から凛のことが好きで、大好きで!
いつも俺の考えることは凛中心でまわっていたというのに。

「違う、俺は。俺は凛が好きなんだ」

彼女が出来て舞い上がっていたあの時期。思い返せば今までで一番楽しくなかった。彼女は何も悪くない。可愛くていい子で、最低なのは俺だ。
彼女と過ごすようになってから俺は凛と過ごせる時間が減ってしまった。思えばあの頃から凛はバイトを増やして俺と会う時間を徐々に減らしていた。あの頃にはもう、家を出ることを決めていたのだろう。俺は寂しくて、クリスマスも年末もバレンタインも。凛と過ごしたいと思ってしまった。彼女には本当に申し訳ないことをしたが、俺はきっとあの子と付き合っている時も無意識に凛のことが好きだったんだ。なのに、違う女の子と付き合って……愛想を尽かされても仕方がないじゃんか…

「おっせーよ紋逸!!」

バシッと伊之助に背中を叩かれる。痛い!と涙目になるけど炭治郎もうんうん、と眉間に皺を寄せたまま頷いている。

「桑島さんに、その気持ちを伝えてみよう善逸。もしかしたら凛の居場所を知ってるかもしれない。大丈夫、善逸の気持ちは必ず桑島さんに伝わるよ」

炭治郎があまりにも優しく言うもんだから俺はやっぱり泣いてしまった。
会いたい、凛。お前がいなくなってから俺は駄目なんだよ。
何度でもごめんと言うよ。何度でも好きだと伝えるよ。
だから、凛。
もう一度だけ、会いたい。



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