「大丈夫? 結構酷くやられたって聞いたけど」

鬼を討伐し戻ってきた善逸が治療を終えた私のところへとやってくる。そのまま直帰も出来たはずなのに、心配して来てくれる善逸は本当に良い奴だなぁと感心する。

あの後、しのぶさんに連絡を入れて逃げるように本部に帰ってきた私はそのまま治療室へと足を運んでいた。
傷のほうは痛みは強いけれど問題はない。骨にも異常はなかったし一週間程激しく動かないこと、と言われて今に至るのだが私はそれどころではない。そんな私の様子に気付いたのか善逸は私の隣へと腰を下ろす。

「何かあったの?」

察しのいい男だ。これでモテないというのだから本当に驚くけど、学校での善逸はよく奇声を発するし女の子にはデレデレしてるからまあ、仕方がないか。
さて、何かあったかと聞かれればありまくりだ。混乱もしているしどうしたらいいか分からない。私ははぁ、と溜息を吐いて重い口を開いた。

「今日、襲われてたの炭治郎だったんだ」
「え!?」

善逸が驚いた声を出す。そりゃそうだろう。私だって驚きだ。鬼に襲われてる人に出くわすのは少なくないけれどそれが知り合いだったパターンはほとんど聞いたことがない。しかも、私が出会ったのは誰よりも出会いたくなかった炭治郎で、しかもその炭治郎が、

「…炭治郎、稀血の持ち主だった」
「……まじかよ」

今世で稀血の持ち主は少ない。本当に希少だからこそ鬼も躍起になって探しているのだ。そして、稀血を判断出来るのは鬼だけ。鬼が稀血の人間を見つけると大体が間に合わず喰われてしまっているため、稀血の人間は見つけ次第私達で保護をしなければならない。それは分かっている。分かっているのだけど、私は炭治郎をこの世界にどうしても巻き込みたくなかった。どうして…

「炭治郎のとこには誰が向かったの?」
「…しのぶさんにお願いした」
「ああ、なら一先ずは安心か…」

しのぶさんには前世の記憶があり、私が炭治郎をこの世界に巻き込みたくないことを分かってくれている人だ。連絡をした時も『今日は竈門君を一旦お家へ帰します』と私の意を汲んでくれた。

「でも凛。炭治郎が稀血の持ち主なら俺達のことを隠し通すのは無理だろ…?」
「私が、炭治郎の家がある地区を担当する。鬼は夜しか活動しないから守り抜いてみせるよ」
「いやいや。今でも寝る時間を切り詰めてるのにそんなことしたら倒れるぞ」

分かってる。炭治郎のことを秘密裏に守るということはほぼ寝ずの番をすることになるだろう。体力が保つかは分からない。だけど。

「巻き込みたくない、守りたい。って言ったらこの方法しかないでしょ?」

守り抜いてみせる。今世では絶対に死なせない。絶対に。


***


凛はああ言っていたけれど、炭治郎を保護する日は遅かれ早かれ必ず来る。
ただでさえ今世の鬼狩りは人手不足で俺達は寝る時間を切り詰めて戦っている。誰か対象一人の番をしながら他の鬼も斬るとなると単純に今の倍は活動しなければならないということだ。
鬼は夜活動する。そして俺達は陽が昇っている間も「普通の生活」をしなければならない。
削られるのは睡眠時間で、鬼が多ければ多いほど寝る時間はなくなっていく。この季節は陽が昇るのが遅い為本当に俺達にとって辛い時期なのだ。

「…つーか、炭治郎のことを警護するなら本気で寝る時間がなくなると思うんだけど」

それは、無理だろう。
人間眠らないで動くには限度がある。凛の炭治郎を巻き込みたくない気持ちはよく分かるけど、神様ってのは残酷なものだ。記憶がなくても稀血である限り鬼からは逃れられない運命なのだから。

「あら、善逸君。凛はもう帰りましたか?」
「しのぶさん、お疲れ様です。凛はついさっき治療を終えて帰りましたよ」
「そうですか。聞きましたか、善逸君」
「炭治郎のことですか?聞きましたよ」

俺の返答にしのぶさんが困ったような顔をする。炭治郎を保護するかどうか、しのぶさんも悩んでくれたのだろう。今まで通りなら間違いなくすぐに事情を説明して保護するのだが、俺達には過去の記憶があり凛がそれを酷く嫌がっていることを知っている。

「竈門君を死なせたくないのなら、凛が諦めるしかありません」

しのぶさんは厳しくも現実的なことを口にする。
それはその通りだ。炭治郎はこれからも鬼に狙われ続けるだろう。過去の記憶がない炭治郎は奴らを倒す術を持ち合わせていない。それこそ、

「不死川さんのように、稀血でも記憶が残ったままなら自分の身を守れますが竈門君には記憶がありませんからね」

そう。今世の鬼狩りでは最強と言っても過言でないほど強い不死川さんは記憶があり、稀血の持ち主である。前世でも稀血の持ち主だったらしく彼の苦労は俺達よりも厳しいものだったと思うのにそれを感じさせないほどの強さは素直に尊敬する。尊敬はしているけど前世でも今世でも鍛えられた時にボコボコにされたので恨んでます!

「凛は暫くは自分が炭治郎の家の地区を担当して寝ずの番をするって言ってましたよ」
「やはりそうですか。…暫くは様子を見ますが、善逸君も竈門君には気をつけてください」
「了解です」

炭治郎が稀血。
それは俺や凛にとっては勿論。記憶を持っている人にとってはやはり受け入れ難い現実だった。



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