あの日から俺は炭治郎と過ごすことが多くなった。
理由は二つあって一つは寒空の下、炭治郎と他愛のない話をしながら家に送り届けた日からすっかり打ち解けたからだ。
もう一つは凛が炭治郎を避ける為に学校では俺とすら行動をしなくなったから。
炭治郎は本当にめげずに凛の元へ駆けつけるけれど、凛はそれを尽く躱していた。いくら前向きな炭治郎でも悲しい顔を隠せないようになっていって、そんな炭治郎を放っておけるはずもなく俺は炭治郎に声をかけることになったのだ。


「あのさぁ、凛」

授業の自習時間に凛に声をかけると凛は逃げることもせず「何?」と返事をしてくれる。凛が避けているのは炭治郎なので、炭治郎がいない時はいつも通り接してくれるのだ。そして凛の顔色は頗る悪く目の下の隈も濃くなっている。炭治郎が稀血だと分かったあの日からずっと凛は炭治郎のことを守っているのだろう。そんな相手をあんなに悲しい音にさせて、凛自身もそんな悲しい音をさせて。お前何がやりたいの?

「いい加減炭治郎と話してあげたら?」
「そういう話ならしない」
「炭治郎、泣いてたよ。凛に嫌われたかもって」

そう言うと凛は泣きそうな顔をして席を立って逃げてしまう。
当の本人があれじゃあな…と俺はうーんと唸るような声を上げて机に突っ伏すことしか出来なかった。


***


「炭治郎、昼飯一緒に食べよ」

いつからか昼休みに凛を探しにくる炭治郎にそう声をかけることが日常になっていた。
俺が誘うと炭治郎は見当たらない凛の姿に少しだけ寂しそうにした後、俺と屋上へと向かうのが一連の流れだ。
そしてその日。いつか切り出されるだろうと思っていた話題を炭治郎はついに口にした。

「善逸。善逸は知っていたのか?」
「何が?」
「斎藤先輩が、夜…その、何かと戦っていることを」
「知ってるよ。俺も凛と一緒だから」

そう言うと炭治郎がとても驚いた顔をする。別にもう隠す必要はない。凛だってバレてしまっているのだし炭治郎も遅かれ早かれ俺達のことを知ることになるのだから。

「ど、どいうことだ?斎藤先輩は…善逸達は何と戦ってるんだ?」

炭治郎にそう聞かれて俺は鬼のこと、そして鬼狩りのことを説明した。鬼とは人の怨念が集まり鬼の形を象り人を襲うお化けのようなもので、普通の人には見えないこと。俺達はそれが見えて戦う力を持っているから夜な夜な狩りを仕事としていること。そう説明すると炭治郎は思った通りの言葉をを口にした。

「俺にも鬼が見える。俺も善逸達と一緒に戦いたい」
「炭治郎に鬼が見えるのはね、お前さんが稀血の持ち主だからだよ」
「まれち…?」
「簡単に言うと、炭治郎は鬼にとって超貴重なご馳走なわけ。俺達は稀血の人間は見つけ次第絶対に守らなければいけないし、稀血の人間を現場に出すなんて有り得ないんだよ。鬼に極上の餌を投げるようなものだからね」

そう言うと炭治郎は酷く顔を歪める。
ごめんな、炭治郎。一緒に戦いたいと願ってくれるお前の気持ちも、絶対に戦わせたくないという凛の気持ちも俺には分かるし、俺もこれに関しては凛と同じ意見なんだ。
炭治郎は前世の記憶がない。実はその時点で鬼狩りとして戦うことは無理なんだ。記憶を持たない人間は今世で「呼吸」を使うことが出来ないから。それは鬼狩りとして記憶のない元隊士を何人か指導して来て分かったことだ。呼吸を使いこなせるのはあの凄惨な過去を捨てきれずこの時代まで持ってきてしまった記憶持ちの俺達だけ。そして鬼は呼吸を駆使しなければ斬ることが出来ない。
だから、どんなに願おうと俺達と炭治郎は肩を並べて戦うことは出来ない。

「まあ、炭治郎が無茶なことせず戦いたいなんて言わなければ凛も普通に喋ってくれるようになると思うからそんなに落ち込むなよ」
「……俺は、斎藤先輩に傷付いてほしくない」
「…そうだな」

分かるよ。俺だって凛や昔の仲間が傷付くところは見たくない。まして、炭治郎は記憶のない今世でも凛のことが好きなのだと言う。今も昔も好きな相手が傷付く姿を見て耐えられる性格ではないだろう。

「…とりあえず、夜出歩かなければ凛の仕事も減るから──」
「え? どうして俺が夜に出歩かないと斎藤先輩の仕事が減るんだ?」

しまった、今のは失言だった。

「あ、あー?そりゃあ、稀血の炭治郎が歩いてたら鬼が寄ってくるかもしれないだろ。念のためだよ念のため」

なんとか誤魔化そうとするけど炭治郎は眉を顰めて怪訝そうな顔を崩さない。その時予鈴のチャイムが鳴り俺は救われたと思いながら立ち上がった。

「炭治郎」

俺に続けて立ち上がった炭治郎に向き直るように声をかける。

「前にも言ったけど凛はさ、お前のこと嫌いになったわけじゃないから。そんなに落ち込むなよな」

俺がそう言うと炭治郎は少しだけ泣きそうな顔をしてありがとうと言うのだった。



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