凛から連絡をもらい俺は準備を整えてすぐに炭治郎の元へと駆けつけた。
連絡をもらった時は実は家にいて、今日は任務も入らなかったので寝ようかと思っていた時だったのだが昨日の今日で炭治郎が夜に出歩いているのはどう考えてもおかしいし、凛が炭治郎のことを俺に託すのも変だ。
何かあったのは間違いないだろう。なら、炭治郎の前に姿を見せる可能性もあるかもしれない。だったら鬼狩りの格好はやめておこうと普段着を着て、念のため刀はギターボックスに隠して背負い連絡のあった炭治郎の元へと駆けつけた。

もう帰ってるかもしれないな、という俺の考えは見事に外れ炭治郎は連絡のあった場所で膝を抱えるようにして座り込んでいた。
鬼狩りの格好で来なかったのは大正解だったな、と自分のことを内心褒めながら俺は炭治郎の元へと駆けつけた。

「あれ、炭治郎?なにしてんのこんなとこで」

あくまでも偶然その場に居合わせたように声をかけると炭治郎は俺の声に反応して顔を上げる。驚くほど悲しい音をさせていて、目には涙の跡がある。…ああ、凛とは上手くいかなかったんだな。

「え!?泣いてたの!?しかもこんなとこに座っちゃってさぁ…とりあえず立とう?な?」

俺の言葉に炭治郎は無言で頷いてよろよろと立ち上がる。その際に触れた体は冷え切ってしまっている。

「……善逸は、何でこんなところに…?」
「え?たまたまだよ。ギターの練習してたらこんな時間になっちゃったの」
「ギター…?」
「そ。俺結構上手いんだよ?今度聞かせてやるよ」

まあギターの練習をしてたってのは嘘だけど、ギターが上手いのは本当だからな。今聴かせてくれって言われたら中身は刀だからアウトなんだけどね。

「…そうか。それは、楽しみだな…」

炭治郎が憔悴したように笑う。
悲しい音はどんどん鋭さを増していって俺の気持ちまで滅入ってしまう。

「…善逸」
「ん?」
「……俺、斎藤先輩に嫌われてしまったかもしれない……っ」

ぼろぼろと、止まっていたであろう両目から大粒の涙を炭治郎が流す。
凛が炭治郎を嫌う?いやいやあり得ないだろ。絶対にないと言い切れるけど炭治郎本人はそう感じるほどに凛に拒絶されたということか。……凛、炭治郎を泣かせてどうするんだよ。

「ちょ、なんで?凛が炭治郎のこと嫌いって言ったの?」

そう聞けば炭治郎は首を左右に振る。

「なら、嫌われてはないんじゃない?あいつ嫌いな奴は嫌いってハッキリ言うよ。大丈夫だって」
「だ、だけど……もう、話しかけないでって…迷惑だからって……」

……そうか。凛は炭治郎を突き放すことで炭治郎を守ろうとしているのか。
分からなくはない。前世で炭治郎は凛を庇って死んだのだから。もう二度と自分のせいで炭治郎を失いたくないのだろう。
だけどさぁ。一番幸せになってほしい相手をこんなにも悲しい音にさせて泣かせるのって俺はやっぱり違うと思うんだよね。

「それで?炭治郎は諦めるの?」
「……え?」
「凛はね。炭治郎のこと嫌いじゃないよ。それは絶対。だけど、あいつにも色々あんのよ。炭治郎は、そんな不器用な凛のことをもう嫌だって思っちゃう?」

俺の言葉に炭治郎の目から溢れていた涙が止まる。そして勢いよく頭をぶんぶんと振ると俺の知っている頑固でどうしようもない石頭の目をした炭治郎がそこに居直っていた。

「嫌じゃない…!俺は…俺は!斎藤先輩が好きなんだ!怪我だってしてほしくないし、笑っていてほしい。あんな顔をしてほしくないんだ…!」

それはきっと、凛も一緒なんだよ炭治郎。

「うん。俺もお前達のことは好きだからさ、そんな悲しい顔するなよ、な?」
「え!?ぜ、善逸も斎藤先輩のこと好きなのか…?」
「好きだよ?」
「えぇ!?」
「ばーか、友達としてだよ」

俺がそう言うと炭治郎はやっと楽しそうな笑顔を見せてくれた。



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