最近、起き上がることすら辛くなって来た。多分、もう次の季節が変わるのを見ることは出来ないだろう。
杏寿郎さんもそんな私に気付いたのか、忙しい身であるはずなのに前よりもよく顔を出してくれるようになった。多分、彼が頻繁に通ってくれなければ私はもう死んでいただろう。

例えば吐血をして意識を失った時も、高熱を出して動けなくなった時も、運良く杏寿郎さんが訪れてくれて介抱をしてくれたのだ。
迷惑ばかりかけてしまって本当に申し訳なく思うのに杏寿郎さんは「気にするな!」といつも優しくしてくれた。
こんなに幸せでいいのかな。私は今、体は辛くて苦しいけれどとても幸せを感じている。それこそ、死にたくないと思ってしまうほどに。
そんな願いは届くはずもなく日に日に病は私を蝕んでいく。
どうか、もう少しだけ保ってほしいと願いながら毎日眠りにつく。目を覚ますことがなかったらどうしようと思わない日はない。

そんなある日、杏寿郎さんが真剣な面持ちで私に声をかけた。

「任務に行くことになった」
「…任務、ですか?」
「うむ、短期間のうちに列車で40人以上の人が行方不明になっている。これ以上の犠牲を出さないために行かねばならない」

時間がかかるかもしれない、と杏寿郎さんが言う。
彼は忙しい人だ。こんなところで足止めをされていてはいけない人。最近は沢山杏寿郎さんを独り占めしてしまったな。とても幸せだった。杏寿郎さんと過ごす時間だけ、私は生きていると思えたのだから。

「杏寿郎さんならきっと、うまく出来ますよ」

その言葉に杏寿郎さんが悲しそうな顔をする。
…ううん、言葉ではなく私の声にその表情を作ったのかもしれない。そう思うほど私の声は弱々しくか細く発せられた。

「凛、俺が帰ってくるのを待っていてくれるか?」

いつもは言わない言葉に驚く。やっぱり杏寿郎さんは私がそろそろ死ぬのが分かってるんだ。
約束は、難しい。何故まだ生きているのかだって分からないのだから。だけど──

「…待ってますよ、杏寿郎さん。私は、貴方の帰りを待っています。…お気をつけて」

生きてみようと。
これが私が果たせる最後の約束かもしれないから、頑張ってみようと思えた。
私の言葉に杏寿郎さんは優しく微笑む。

「うむ!行ってくる!」

いつものように大きな声でそう言って杏寿郎さんは任務へ行くためにこの場を後にした。
リーンという心地良い音が部屋に響く。


なんとなくだけど、
もう杏寿郎さんには会えない気がした。



[ 9/11 ]


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