善逸にあんな偉そうなことを言っておきながら、実は私も今まで好きな人というものが出来たことがなかったなと今更になって気付いた。
友達や仲間として好きな人は沢山いたけど、恋慕とか恋仲とかあまり興味がなかったからなぁ。
だから善逸が好きだと伝えてくれて、いいよと言ったもののこんな中途半端な気持ちで結婚したら善逸に悪くないかななんて私だって悩むこともあったのだ。

「凛、今日も可愛いねぇ」

「これ美味しいから凛にも食べて欲しくて買ってきちゃった」

「凛〜!」

だけど最近善逸を見てると思うことがあるんだよね。なるほどこれが…



***



「ということで、善逸と結婚することになりました」
「ぶっはーーーー!!!!」

ひーーっ!と天元君がお腹を抱えて笑っている。
くっ、意外と勇気を出して伝えにきたというのに天元君はそれはそれはもう楽しそうなんてもんじゃない、机をバンバンと叩いて大爆笑だ。
そんなに笑わなくても…とじろりと天元君の方を見ると涙が出るほど笑っていたらしく目尻の涙を拭って私へと向き直った。

「あーー腹痛ぇ、またなんだってそんな展開になったんだ?」
「いや、善逸が私のこと本気で好きになってくれたから…」
「ふーん。で、お前は?」
「へ?」
「善逸のこと、本気で好きなのか?」

善逸のことが本気で好きかどうか。
それは私自身も悩んだことだった。私は善逸のことが嫌いじゃないし人としては好きだったから。
ただ、それだけで。善逸のことは可愛い後輩にくらいにしか思ってなかったのだ。─ついこの間までは。



***



「凛」

声がする。嬉しそうな声だ。振り返ると少しだけ頬を染めた善逸が立っている。

「善逸、おはよー」
「おはよう。…へへ、朝から凛に会えて嬉しいな」

特に何もしていないのに。朝、善逸と出くわして挨拶を交わしただけ。それだけなのに善逸は本当に本当に嬉しそうに微笑む。そんな顔をされると私まで嬉しくなってしまって、へへっと笑えば善逸もやっぱり嬉しそうに笑ってくれた。
そんな些細なことが善逸と会う度に募っていく。
顔を合わせれば嬉しいだの好きだの甘えてくれて、美味しいものを見つければ私にも食べて欲しいからと買ってきてくれるようになったので私も善逸におすすめのものを買うようになればとても喜ばれて、気付けば何をするにも一番に善逸のことを考えるようになった。



***



「それがさぁ。善逸と過ごしてるうちに多分、私善逸のこと本気で好きになっちゃったんだよね」
「ほう?」
「本気で好きな人と結婚するってこういうことだったんだ。私も初めて知ったよ」

最初は善逸に自分を安売りしてほしくなくて、本当の恋をちゃんと探すんだよと偉そうに諭そうと思っていたのに、気付けば善逸を通して私がそれを学ばされてしまっていた。
善逸が私を見つけてくれるのが嬉しい。凛と呼ばれ嬉しそうに駆け寄ってくる善逸が愛おしい。会えない時は寂しいし、会えた時は嬉しくて仕方がない。なんてことだ、これが恋じゃなくてなんだというのだろう。

「盛大に惚気やがって」
「へへっ」
「惚気ついでに気付いてないみたいだから教えておいてやるけどよ、お前。今まで善逸以外に告白された時には全員一刀両断で断ってたんだぜ?」
「え?」
「は〜、無自覚な男泣かせなことで。俺も嫁達に会いたくなってくるわ」

天元君の言葉に何かとてつもなく恥ずかしくなってくる。そんな私を見て天元君は「良い顔してんなー」とまたしても笑うのだった。




[ 8/11 ]


×
- ナノ -