もう本っ当に疲れた。
今回の鬼はなかなか尻尾を出さず、なんと人間と組んでいたため誤情報にも泳がされ続け討伐までに一月もかかってしまった。

「藤の家紋の家、遠いなぁ…」

これならしのぶの蝶屋敷の方が近いかもしれない。あ、と。その時あることを思い出す。この道なりなら天元君の屋敷の方が近いではないか。
夜分遅いしお嫁さん達とお楽しみだったら…まあ謝ればきっと許してくれるだろう!
そう思い私は疲れ切った体に喝を入れて天元君の屋敷を目指した。


***


「はーいいお湯でした!天元君ありがとう」
「良いってことよ。お疲れさん」
「雛鶴さんは?」
「先に寝るってよ」
「そっかぁ、明日お礼言わないとね」

天元君の屋敷に着いた私を嫌な顔一つせずに天元君と雛鶴さんは迎え入れてくれ、すぐに湯の用意をしてくれた雛鶴さんは本当に出来たお嫁さんだなぁと感心する。今日は須磨さんとまきをさんは他の所用で出ていたため屋敷のことは全て雛鶴さんが面倒を見ていたようだ。うーん、凄い。

「お前ももう寝るか?任務きつかったんだろ」
「んー、少しだけ目が冴えちゃったし天元君に会うのも久々だからもうちょっと起きてようかな」
「じゃ、これでも飲むか?」

そう言って天元君が出してきたのは高いけど美味しいと有名な酒!

「飲む!」

そう言うと天元君は「そうこなくちゃな」と楽しそうに笑った。




酒が入った凛はご機嫌そうに笑いながら話し続ける。相変わらず嫌味もなく楽しそうに話す凛に絆されながらも俺はあることを思い出した。

「そういえばこの前、善逸が来たんだけどよ」
「善逸? あぁー、あの子面白いよねぇ」
「まあな。親しいのか?」
「仲良しだよ〜初めて会った時は結婚してって言われたけどね」

おかしいよね〜と凛は楽しそうに言う。 
……おいおい善逸。見境なく結婚を強請る癖があるのは聞いていたけど凛にもしてたのか。
だけど凛はさして気にしてない様子だ。この感じだと善逸に脈はないのだろうか。

「ふーん、で?お前善逸と結婚してやる気なの?」
「え、なんで?」

なんでときたか。

「凛は何て返事したんだ?」
「んと、私のこと本気で好きになったらいいよ…だったかなぁ」

呑みかけていた酒を思わず吹き出しそうになる。
いやなんだそれは。それはかなり期待させる返事なんじゃないのか?でもさっきの様子からすると凛は別に善逸のことはなんとも思っていなさそうだし…相変わらず読めない奴。

「それは男を勘違いさせるぞ凛。第一、本気で好きになられたらそれこそ責任を取るつもりなのか?」
「善逸は私のことを本気で好きにならないよ」

優しく微笑みながら凛がそう言う。

「なんでだ?」
「善逸が欲しいのはね、結婚相手じゃなくて安心だと思うから。それが欲しいから手段に結婚を使う。でも夫婦になるって一生ものでしょ?だから本当に好きな人としてほしくて。私が好きじゃないって気付いたら誰彼構わずそういうこと言ったら駄目だよって言うつもり」

一応人生の先輩ですからね!と凛が誇らしげに胸を叩く。
驚いた。凛の言うことはおそらく間違っていないのだろう。善逸は喧しかったり人に縋る癖があるがそれは奴の心の奥底に潜む孤独が無意識にそうさせているのだと思う。独りになりたくないから、一番簡単で確実な方法である「結婚」という言葉を口にするのだ。それは悪癖だと竈門達に諭されても治ることはなかった。
凛は抜けているようで鋭いところがある。善逸から何かを感じとって、自分を通して本当に好きだということはどういうことか理解させようとしたということか。
ただまあ。あの様子を見るに善逸はなぁ…。

「なるほどなぁ。だけど凛。善逸が本気でお前に惚れたらどうするんだ?」
「ええーないでしょ」
「もしもの話だって」
「うーんそうだなぁ…」

凛は酔いが回ってきたのか頬を染めながら言葉を紡ぐ。なるほど、凛らしい。
その言葉に気を良くした俺は凛にもっと呑めよと酒を勧めて潰してしまい翌朝雛鶴に怒られるのであった。




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