今日も今日とて俺は任務へと赴いている。
嘘すぎない?ついこの間任務を終えたと思ったらもう次の任務?しかももう一人向かっているはずって聞いてるのに誰にも会わなかったんですけど。

「ひいぃ!」

鬼の音がする。いやいや勘弁してくれよ…!
耳を澄ませて音に集中する。鬼は何体だ、どの方角にいるのだろう。すると分かったのは鬼は一体だがどこにいるかと言うと─

「こっちに向かってますね!?」

どうやら鬼は俺に気付いたらしくこっちへ向かってきている。しかもかなりの速さだ。どうする、どうする!

「む、無理無理無理矢理!死んじゃうよぉ…!」

刀にかけた手がガタガタと震えている。だって明らかに強い鬼の音がするんだもん。この前の単独任務の時よりももっと、強い。だからもう一人と合流しろって言われてたのか。なるほどね!?

「もう一人どこだよ!合流出来てないんですけど!」
「いやいやごめんね、道に迷っちゃって」
「へっ」

その声と同時に鬼が目の前に現れた。大きい─人の形をあまり残していない鬼だ。俺が構えるよりも、その鬼が俺に向かうよりも速く俺の横を走り抜けた人物が刀を抜いた。

「雪の呼吸 肆の型─」

弧を描くような美しい型は瞬きの間に鬼の首を落としていた。あんなに大きくて硬そうな鬼の首をたった一撃で。首を失った鬼は派手な音を立ててその場に崩れ落ち、その姿を消した。
鬼を斬った人物が刀を鞘に納めて振り返る。うそ、嘘すぎでしょ?

「女の子!?」
「あ、うん。一応女の子です」
「滅茶苦茶強いね!?結婚して俺を守ってくれよぉ!」
「結婚?」

がばっといつものように求婚した相手の腰に抱きつけばいつもとは違って振り解かれない。あれ?と思い彼女のことを見上げてみれば彼女は笑っていた。

「いいよ?」
「え゛!?本当に!?」
「君が私のことを本気で好きになったらね」

ところで君、名前は?と聞かれ我妻善逸と名を名乗ると良い名前だねと笑ってくれる。
いや、え?結婚を受け入れてもらえたの?でも俺がこの人のことを本気で好きになったらってどういう…?

「私は斎藤凛。よろしくね善逸」
「よ、よろしく…凛さん?」
「さんなんていらないよ」

手を差し出されたので握り返すと思ったよりも小さな手をしていて女の子だということを再認識させられる。こんな小さな手で、あんなに強い一撃を放てるなんて凛は一体何者なのだろう?
それに結婚をいいよと言ってくれた時も、俺が本気で好きになったらと言った時も凛からは嘘の音がしなかった。真っ直ぐで淀みのない綺麗な音だ。この音は嫌いじゃないなと思えた。


***


「雪柱様!」

現場に到着した隠の一人がそう言う。
待って?雪柱って誰のこと?

「お疲れ様。鬼は被害が出る前に私が片付けたからここは問題ないよ」
「そうですか。二人ともご無事で何よりです。雪柱様も帰還してください」
「ありがとう」

……………

「柱!?」
「あ、うん。一応柱です」

滅茶苦茶強くて俺の結婚を一刀両断しなくて本気で好きなったら結婚をいいよと言ってくれた女の子は柱でした。



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