任務を終えて何処にも寄らずに自分の屋敷へと足を運ぶ。今の俺には帰る場所と待っている人がいるから。
屋敷へ着き、扉に手をかけようとすると聞こえてきた心地の良い足音にその手を止める。俺が戸を開けなくてもそれは勝手に開かれた。

「おかえり、善逸!」

そう言って俺のお嫁さんである凛が飛び付いてくる。俺の帰りをいつも嬉しそうに待っていてくれる凛。
彼女は俺と出会った時は雪柱という階級をもらっていたが、俺と共に上弦の鬼を倒した時に足を負傷して以前のように戦えなくなってしまっていた。酷く落ち込む凛に俺は「これからは俺が凛の代わりに沢山の人を助けるよ」と誓い上弦の鬼を倒した功績もあり凛と入れ替わるように鳴柱という名前と階級をもらった。

凛が戦えなくなってしまったのは彼女にとっては酷く耐え難いもので辛かったことだと思うのだけど、俺からすれば凛とお互いの任務で離れ離れになる機会もなくなり、俺が任務から帰ってくるといつも屋敷に凛がいるこの状況は正直言って役得でしかなかった。
こんなことを言うと凛が鬼殺隊士として戦えなくなったのを喜んでいるようなので本人には絶対に言えないが、惚れてる相手をこれ以上負傷させたくないと思うのは仕方がないことだと思うので許してほしい。

「んぅ、善逸…っ」
「ん、もうちょっとだけ…」
「……っ」

そう言って凛に深く深く口付ける。
段々体に力が入らなくなってきた凛から口を離し、そのまま抱き抱えると凛から「お風呂が先!」と静止されえぇ〜と不貞腐れたように凛と戯れ合うのがいつもの流れになっていた。



俺さ、誰か一人でも良いから幸せにできる未来をずっと思い描いてたんだ。
だけど俺は弱いから、そんな自分が嫌いでいつも自信が持てなかった。凛と結婚をしてから何かが俺の中で変わったんだ。守りたいって。この幸せを、彼女を絶対に守り抜きたいと思うようになってから俺は任務で意識を手放すことが徐々になくなっていった。
凛が大怪我を負ったあの時、彼女を守れないならば死んだ方がマシだとすら思えた。あの時から俺は戦いの最中に意識を手放すことが完全になくなったのだ。
凛のことを思い浮かべると力が湧いてくる。必ず守ると、心に決めたから。


「善逸?」

凛のことを見つめていると凛は小首を傾げて俺の名前を呼ぶ。

「考え事?」
「ううん。凛のことが好きだなって思って」

正直な気持ちをそのまま伝えれば凛は嬉しそうな音を鳴らして笑う。

「私も善逸のこと大好きだよ」



俺は結婚に憧れていた。いや、結婚をすることで誰かと縁が出来ることにずっと憧れていたのだ。俺は孤児で、物心ついた時からひとりぼっちだったから酷くその関係性に惹かれて。
正直なことを言えば誰でも良かったのだ。可愛ければなお良し。俺と結婚さえしてくれるのならそこに好きという感情がなくても別に良いとさえ思っていた。
そんな俺の考えを見抜いたのかは分からないけど凛は本気で好きになったら結婚してくれると言ってくれた。凛にはいくら感謝しても足りない。その言葉のおかげで俺は結婚ではなく人を好きになるということはどういうことかやっと考えることが出来たのだから。
そして今、心の底から好きな相手が俺の腕の中にいる。

俺はこの縁を絶対に手放さないから。
腕の中にいる凛と目が合い微笑めば、凛も愛おしげに俺を見て微笑むのだった。








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