炭治郎とまぐわうこと自体は嫌いじゃない。
いつも誰にでもにこにこと優しい笑顔を浮かべているこの男が私に欲情して「雄」を丸出しにする表情は正直滅茶苦茶好きだし、何より体の相性が良いのかはたまた炭治郎の情事が上手いのか。
兎に角気持ち良いので嫌いではないのだ。しつこすぎたり気絶するまでやられることもあるがそれはその都度怒っている。しかし何よりも私が問題だと思ってるのは──

ガリッ

「いたぁーっ!!」

これである。


***


「すまない!その、どうしてもいい匂いがして我慢出来ないんだ…!」

炭治郎が頭を下げながらそんなことを言うが私は怒っている。体中に歯形、跡、歯形、跡。絶対に人前で肌を晒すことが出来ないほど炭治郎は毎回私の体にまるで食い尽くすかのように跡を残す。
何度言ってもどうしても治らないしやめてくれない。炭治郎曰く「そんないい匂いをさせて我慢なんて出来るわけがない!」とのこと。知らないわ!

「もー、がぶがぶ噛んで…わ、こんなとこにも歯形ついてる」

太ももの内側なんて両足に歯形が付いているし、ふくらはぎに二の腕、胸に……ヒリヒリするから首の辺りにも跡か歯形か。…多分両方残っているんだろうな。

「…見えるとこにはつけてないよね?」

鏡を見る前に炭治郎に確認すると炭治郎はにっこり笑って何も言わない。
そう、嘘をつけない炭治郎の無言である。

「もー!この暑いのに稽古で上着脱げないじゃん!」
「脱いだら駄目だぞ!皆が凛に釘付けになってしまう!」
「違う意味で釘付けになるだろうね!」

ばか!と言って枕を投げつけると炭治郎はごめんごめん、と何故か嬉しそうに謝るのであった。


***


堪らない、本当に堪らないんだ。
後ろから抱え込むように凛を抱けば気持ち良さそうな声と共にくらくらするようないい匂いがする。俺は鼻が良いから凛の「気持ちいい」という匂いや「欲情」している匂いを覚えてしまっている。
ああ、良い匂いだ。駄目だと、きっと怒られると分かっていてもどうしても我慢ができない。俺は凛の白い頸にちゅ、と口付けてそのまま──

「いたぁーっ!!」

噛み跡がくっきりと残るほど噛んでしまうのであった。


予想通り凛は大変お怒りである。もう、とへそを曲げながら俺が残した跡を探す凛が愛らしい。跡を一つ一つ見つけるごとに凛が俺のものであるという感覚が芽生える。…どうやら俺は相当独占欲が強いらしい。どれだけ怒られようと凛が「自分のものである」という跡を残したくて堪らないのだ。

「…見えるとこにはつけてないよね?」

じと、とした目で凛が俺を見る。
凛の首の周りにはそれはもう立派な歯形が三個も付いており吸い跡もかなりの数が残っている。隊服の釦を上まで止めてもきっと見えてしまうだろう。特に頸の歯形は絶対に隠せないほどくっきりとついていた。俺がにっこりと笑って無言を貫けば凛は察したようで

「もー!この暑いのに稽古で上着脱げないじゃん!」

そんなことを言う。何を言ってるんだ!ただでさえ最近は隊服の上からでも体つきが女らしく魅力的になってきたのが分かるというのに上着を脱いだらますます注目されてしまうだろう!

「脱いだら駄目だぞ!皆が凛に釘付けになってしまう!」
「違う意味で釘付けになるだろうね!」

ばか!と言って凛は枕を投げつけてくる。
その顔も匂いも確かに怒っているのにどこか恥ずかしそうで、俺のことが好きだという匂いは一切途切れることがない。…勘弁してくれ。愛しすぎて頭がどうにかなりそうだ。

「ごめんごめん」

と言う俺の声は目の前の凛への愛情が滲み出て笑い声となっていた。


***


「うわ、凛それどうしたんだ?」
「え?」

炭治郎のせいで隊服の釦を緩めることも出来ず稽古中は暑くて堪らない。髪を高いところで結うのが精一杯だ。他の隊員は上着を脱いでいるのに…炭治郎め…!と恨み言の一つでも言ってやろうと思っていると後ろから玄弥に声をかけられた。

「いや、首のとこ」
「首…?」
「なんか、虫刺されと…歯形?みたいなのが」
「!!!!」

玄弥が最後まで言い切る前に結っていた髪をすぐに解く。決して短くない髪はますます暑さを倍増させるけどそんなこと気にしていられない。
いやそれにしても、きっちり隊服を着込んでいても見えるところに跡を残していたのか炭治郎め…!

「髪下ろしたら暑くないか?」
「暑いよ!」
「? 上着もお前しか着てないけど脱がないのか?」
「脱ぎたいよ!!」
「???」

玄弥は不思議そうに首を傾げるのであった。


***


「うわぁ、炭治郎背中凄い事になってるぞ」
「ああ。やっぱりか」

善逸に指摘され背中に手を伸ばせばチリっと痛みが走る。凛は無意識でやっているから知らないだろうがまぐわった時、凛は限界まで攻めると俺の背中にしがみついてくる。
その際、爪を立てられるので爪痕が俺の背中にはくっきり残っているのだ。

「痛くないの?」
「痛くなくはないけど、我慢できる程度だよ」
「凛だろ?それ付けたの。説明すれば引っ掻かないようになるんじゃないの?」

確かに。凛にこの背中を見せれば彼女は確実に爪痕を残さないよう努力をしてくれるだろう。だけど俺はそれが嫌なのだ。

「凛は出来る限り跡を残さないようにしてくるんだ」
「? うん」
「口吸い跡も俺はもっと付けてくれても構わないんだが、見えないところにたまにしか付けてくれない。だけどこれは無意識のうちに付けてくれる跡なんだ。俺はそれが嬉しくて、やめてほしくないんだよ」
「それって、自分が凛のものって実感出来るから?」

善逸がにやにやと笑いながら言う。全くもって、

「そうだよ」


ガリッ

「いたぁ!もう、次噛んだら今日はこれ以上しないからね!」
「そ、それは酷いぞ!」
「酷いのは炭治郎でしょ!」

今日も今日とて俺は凛に跡を残し、凛は知らぬ間に俺に跡を残すのだ。





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