俺の前だけにしてください



「なんだお前達酒飲んだことないのか」

宇髄さんの屋敷の近くに用があり凛と俺は挨拶をして行こうか、と宇髄さんの屋敷へと向かった。
久々ということもあって話も弾み「良い酒が手に入ったからどうだ」と宇髄さんに勧められるが、俺達はまだ未成年であと一年もすれば飲める歳になるのだが勿論酒なんて飲んだことがなかった。

「いいじゃねえか。堅い事言わず飲んでいけよ」

これくらい飲めないと男が廃るぜ?と凛の肩を抱くようにして宇髄さんが言う。
ピキッと俺の中で何かの音が鳴った気がした。

「飲みます!飲みますから凛から離れてください!」

ぐいっ、と凛の腕を引っ張って思い切り抱きしめれば凛は少し困ったように笑っている。いくら宇髄さんと云えど凛に必要以上に触るのは許せないのだから俺の行動は何も間違っていません。
くっくっ、とそれはもう楽しそうに笑いながら宇髄さんは酒を杯へと移していく。杯の数は三つ。

「え、私も飲むんですか」
「当たり前だろ?竈門も飲むんだし大丈夫だって」
「凛、無理そうなら俺が飲むぞ?」

凛は少し悩んだあと首を横に振る。

「ううん、飲んでみる。炭治郎がいるなら安全だし」
「人のことを安全じゃないみたいに言うなよな?」

宇髄さんがニヤニヤと俺を見て笑う。
俺はと言うと無自覚に煽ってくるのはやめてほしいと思いながら顔に手を当てて一つ深呼吸をする羽目になった。


***


宇髄さんが進めてくれた酒は美味しくて俺も凛も初めての酒に高揚した。そんな俺達を見て気を良くしたのかもっと飲め飲め!と宇髄さんはどんどん酒を注いでくれる。よく酒には飲まれるな。という言葉を聞くけどそのようなことはなさそうだ。確かに美味しいが酔いなどは感じない。酒とはこういうものなのかと感心して隣に座る凛のほうを見るとにこにこと顔を赤らめて笑っている。

……。………!?

見間違いかと思いもう一度凛のほうへ目をやるとそれはもうにこにこ、にこにこと笑顔で酒を飲んでいる。なんて可愛らしい──じゃなくて!
凛はあまり感情を表情に出す方ではない。いや、最近では色んな表情を見せてくれるようになりどれも愛おしいなと思っているのだけど。
…そうではなくて!
凛がこんなあどけない表情で笑うところなんて俺ですら今日初めて見る。凛、まさか。

「凛」
「んー?」

とろんとした目で俺を見つめる凛を見て確信する。これは酔っているぞ。

「なあにたんじろー」

ぎゅっ、と凛が笑いながら抱きついてくる。いつもなら恥ずかしがり屋の凛がこんな風に抱きついてくることは本当に稀だ。潤んだ瞳で上目遣いをされれば理性なんて吹っ飛びそうになる。

「はーん。凛は笑い上戸…もしくは甘え上戸だな」

宇髄さんの声にはっ、と我に帰る。
危ない、宇髄さんの存在を完璧に忘れていた。あと数秒遅かったら凛を押し倒すところだった。
そんな俺の辛抱なぞ余所に凛はにこにこと可愛らしい笑顔を浮かべて抱きついたまま離れない。

「竈門は酔ってなさそうだな。酒に強いみたいだな」

もし仮に酔っていたとしても一瞬で酔いが覚めていたと確信出来る。

「へえー。そういう顔してれば年相応に可愛いじゃねえか」

凛を見ながら宇髄さんが言う。
なんだかとても気に食わない。俺だってこんな風に笑う凛は初めて見たのに。抱きついている凛を思い切り自分の胸へと抱き返し宇髄さんから顔が見えないように覆う。

「なんだよ竈門。もう見せてくれないのか?」
「そうですね。もうおしまいです」

俺が嫉妬しているのが分かりきっているのか宇髄さんははいはい、と愉しそうに笑う。

「んぅ、くるしい」
「あ、そうだよな。すまない」
「でもたんじろーのにおいすき」

そう言って胸元にすり、と顔を擦り寄せてくる凛に流石の俺も我慢の限界だった。

「凛、おぶされるか?今日はもう帰ろう」
「えー」
「えーじゃない」
「んんー…あっついよぅ」
「え!?」

そう言うと凛は隊服の釦に手をかけあろうことか一つずつ外し始める。
いやいやいや、ここには宇髄さんもいるのにそれはまずいだろう。何よりその手つきを見て情事のことを思い起こされるとそろそろ俺も限界が過ぎるというか。

「凛!だ、だめだ!屋敷まで我慢しろ!」
「えーいつもたんじろーだってぬがせるのにー」
「そ、それはそうだけど…!」
「あーお前らあれだ。屋敷の近くに茶屋があるからそこの二階を貸してもらえ。俺の名前を出せばすぐに使わせてもらえるだろうから」

さっさと行ってさっさとやってこい。なんて宇髄さんに背中を押され駄々をこねる凛を抱き抱えて宇髄さんの屋敷を後にする。
宇髄さんが言っていた通り茶屋で元音柱である宇髄さんの名前を出せばすぐに二階を貸してくれたうえに人払いまでしてくれた。…ありがとう宇髄さん。
既に用意されていた布団の上に凛を下ろすととろんとした目で夢主は俺を見上げる。
えっと、抱いてもいいのだろうか。今の凛は酔っていてちゃんとした思考が伴っていない気がする。そんな凛を果たして抱いてもいいのか…?
だけど俺はもう限界だし一刻も早く凛を抱きたい。

「たんじろ、しないの?」

俺の悩みを見事に一言で吹き飛ばした凛に甘え俺は隊服を脱ぎ捨てた。
酔っていても凛は凛だからな。
うん。誘ったのはお前だぞ?


***


「…え?」

目を開けると見慣れない天井が広がっている。なんだ、ここはどこ?起き上がろうとすれば腰に痛みが走る。え?

「あ、凛。起きたのか?」

声のするほうを見ると炭治郎が水差しを持って私のすぐ側に腰を下ろす。

「水、飲めそうか?」
「う、うん…?」

はい、と炭治郎に湯飲みを渡され水を飲む。
うん、落ち着こう。私は宇髄さんの屋敷に炭治郎と出向いたはず。そこでお酒を振る舞ってもらって…美味しいなって思って……?

「凛、何があったか覚えているか?」
「…宇髄さんにお酒をご馳走になって、」
「うん」
「…ここで寝てた?」

私がそう言うと炭治郎ははぁーーーと大きな溜息をつく。え、なに。

「凛」
「は、はい」
「頼むから俺がいないところでは酒を飲まないでくれ!」

よく分からないけど、炭治郎はとても必死に私にお願いをするのだった。





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