例の服を着た話



甘露寺さんとの任務で鬼を倒すことには成功したものの、泥濘に嵌ってしまい隊服を駄目にしてしまった。
流石にこの泥に塗れた隊服を着て歩くのは嫌だなぁと思っていると甘露寺さんが「私の屋敷がすぐ側だから服を貸すわね!」ときらきらと可愛らしい笑顔で言ってくれたのでその言葉に甘えることにした。
何故気付かなかったのだろう。いくら甘露寺さんが完璧に着こなしてるからと言って私が「あの隊服」を着るのは無理があると。



「凛ちゃん!とっても似合ってるわ!可愛い!」

興奮気味で甘露寺さんがそう言うが私としては本気で居た堪れない。だって、その。まず下袴の丈が短い。本当に短い。こんなにも足を露出させたことなんて生まれてこの方一度もないのだ。そして何よりもむ、胸、が、曝け出されてるというか。甘露寺さんより一つ小さい隊服を用意してもらったせいで私の胸ですらその、激しく動いたら溢れてしまいそうなのだ、胸が。
甘露寺さんいつもこんな隊服で戦ってるの?本気で?この隊服支給した奴処罰して良いと思うよ?

「自分の屋敷に戻るまでだから、その隊服でも我慢できるかしら…?」

甘露寺さんが申し訳なさそうに言う。
いや、甘露寺さんは何も悪くないしむしろ服を貸してもらえたのは本当に有り難かった。

「我慢なんてとんでもない。ありがとうございます甘露寺さん!助かりました」

そう言うと甘露寺さんはとても嬉しそうな笑顔を浮かべる。甘露寺さんは可愛い人だな、といつも思う。そんな彼女と同じ服を着ているのはやっぱり身の程知らずで少しだけ恥ずかしかった。


***


「あ」

屋敷へ向かっている最中に見覚えのある二人組を見つける。善逸と宇髄さんだ。

「善逸、宇髄さん。こんにちは」
「ん? ああ凛か。おまっ──」
「は!? 何その格好!?」

うぐっ。二人とも目を見開いて私の姿を凝視する。
…似合ってないのは分かっていたけれどこうも露骨に反応されるといくら私でも少し傷付くというか。むすっと眉を顰めると善逸はいやいやいやいや!と声を荒げる。

「甘露寺さんと同じ服!? は、羽織はどうしたの?」
「隊服も羽織も駄目にしちゃったから甘露寺さんに借りたの」
「ほぉ〜、良い眺めじゃねーか」
「は?」

宇髄さんの目線の先は…私の胸元へ向いている。
え、嘘でしょ?いつもあんなに可愛くて胸の大きい甘露寺さんが同じ服着てるのになんでそっちには反応しなくて私には反応するの?
というかお嫁さん達の服を思い出すけど、貴方こんなの見慣れてますよね?
腕で空いた胸元を隠すと宇髄さんは「ははっ」と笑う。

「もう、からかわないでください」
「あ? 男なら見るだろうが普通」
「見ないで良いです!」
「特にお前、いつもサラシで胸潰してるだろ?それがそんな無防備に出てたら誰だって見るわ。 なあ善逸?」
「いや、俺はちょっと親友の顔が頭にチラつくので…」

その言葉に宇髄さんはまたしても「はははっ!」と楽しそうに笑う。
親友……炭治郎と伊之助のことだろうか?

「いやでも凛、やっぱりその格好はまずい」

そう言って善逸は自分が着ていた羽織を脱いで私に渡してくる。

「それ着て、炭治郎のところ帰るまでは絶対脱ぐなよ。俺の羽織だから胸元まで隠れると思うし…」

ほら早く、と言われるので善逸の意図はよく分からないけれど渡された羽織に腕を通す。
…大きくて少し動き辛い。
これ、着なきゃ駄目かな。と善逸の方を見るとあー…と気まずそうな顔をしている。

「え、なに」
「…いや。俺は凛と炭治郎のことを思ってやったんだけど…これ、怒られますかね?」
「竈門だろ? どうだろうな。嫌がるのは思うけど」
「でも何もしないで帰らせたらもっとやばいですよね?」
「やばいだろうな」
「? 炭治郎がなんで怒るんですか?」

私の言葉に善逸は溜息をつき、宇髄さんは楽しそうに笑っている。いや、なんなんだ。理由を教えてほしい。
だと言うのに結局二人は詳しいことは教えてくれず「とにかく羽織は脱ぐなよ」と私に釘を刺すのだった。



***



屋敷に着いてただいま、と声をかければその声に反応して炭治郎が走ってきてくれる。
それにしても珍しいなと。いつもならそのよく効く鼻で私の匂い?とやらを嗅ぎ取って門まで迎えに来てくれるのに。…いやいや、毎回それじゃあ炭治郎に甘え過ぎだし別にいいかと思って歩いていると、こちらに向かっていた炭治郎と再会をして

「え!?」

とまるで信じられないものを見たような顔を炭治郎がする。

「? ただいま、炭治郎」

いつもなら笑顔でおかえりと言ってくれるのに、炭治郎は完璧に固まってしまっている。
どうしたんだろう。具合でも悪いのかな。
そんなことを思っていると真剣な顔で炭治郎が私の両肩に手を置いて目を合わせてくる。な、なに?

「こ、これは善逸の羽織だよな…?」
「うん…?」
「……脱いでほしい」

むすっと、少し拗ねたように炭治郎が言う。
……それはちょっと、可愛くないか。
いくら私でも分かる。炭治郎は私が善逸といえど他の男の羽織を羽織っているのが嫌なのだ。だけど相手は善逸だし…といった感じで耐えているのも分かるし、何よりこんなにもはっきりと妬いてます!という顔をされると私だって嬉しくもなるのだ。

(ああ…)

善逸と宇髄さんの言葉の意味が今分かった。
炭治郎が怒るだの嫌がるだの。…あの時点で気付けなかった自分の鈍さに呆れと申し訳なさを覚えながら私は炭治郎に微笑みかけた。

「ふふ、すぐ脱ぐよ」

その言葉に炭治郎はぱぁ、と嬉しそうな表情をする。任務明けとはいえこんなにも愛情表現をされて嬉しくないわけがないし、自分の恋人ながら本当に可愛いな。と思ってしまう。
さて、炭治郎が気にしてるし羽織は脱いでしまおう。炭治郎と一緒に部屋へ戻って早々に羽織を脱ぐと──

「ま、待ってくれ!! そ、その服……え!?」

炭治郎はますます顔を赤くして混乱していた。





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