我慢とお誘い



※誰の仕業だ?の続きです。


「はっはっはっ!そんで今はお預けされてるってわけか」

しのぶさんに届け物を頼まれて宇髄さんの元へと向かえばどうせ来たならゆっくりしていけと言われてその言葉に甘えさせてもらうことにした。
そう、実は宇髄さんには色々と相談に乗ってもらうことが多かったのだ。
例えば凛に片思いをしている時も、そして思いが実った後も女性の扱い方や喜ばせ方など。宇髄さんは嬉々として俺に色々伝授してくれた。流石お嫁さんが三人もいる宇髄さんの指導は凄まじいもので。口吸いの極意や床での女性の喜ばせ方等を教えてもらったものだ。

「はい…普通に接してはくれるんですが…口吸いすら許してもらえません」
「まあ、仕方がないだろ。愛想を尽かされなかっただけ得したと思えよ」

うっ。そう言われてしまえば返す言葉もない。
あの日俺は凛をそれはもう手酷く抱いた。世間一般ではあれはもう強姦と言っても過言ではないだろう。何度もやめてと淫らに叫ぶ凛には本当に申し訳ないことをしたと思う。思うのだが想い人の乱れる姿はいつ見ても興奮するというか──

「おいおい竈門。思い出すのも結構だがこんなところでおっ勃てるなよ?」

宇髄さんに言われてはっと我に帰る。もう一週間お預けを食らっている。いやまだ一週間というべきか。だけど俺は凛を抱きたい!それこそ毎日でも抱きたいのだ。そんな俺からすると今の状況は本当に辛いのだが種を撒いたのは自分なのだから我慢するしかない。

「まあ、お許しが出たら今度はちゃんと優しく抱いてやれよな」
「お許し…出ますかね?」
「出るに決まってんだろ。お前、凛のこと散々抱いてきたんだろ?なら凛だってしたくもなるだろ。何だ、お前今まで凛から誘われたことないのか?」
「──」

宇髄さんに言われ思い返せばいつも俺から誘っていたことに気付く。もしかして凛は俺がしたがるからしてくれてたのだろうか?いや、それはない。何せ凛からはちゃんと欲情した匂いがしていたからな。だけど、そうか。

「…いつも俺から迫ってました」
「まあ、お前くらいの年頃だと毎日でも盛ってるもんだ。でもな竈門」

宇髄さんがニヤリと笑う。

「いつも誘ってこない相手から誘われると…最高に燃えるぞ?」

うちでは雛鶴がそうだな。と宇髄さんは楽しそうに笑った。


***


私がまぐわうことを禁止してから炭治郎は素直にそれを守っている。初めの頃は口吸いだけでも、とか。凛…なんて甘い声を出してすり寄ったりしてきたが一週間程経った頃からそれがぱったりとなくなり、炭治郎と肌を重ねなくなってから今日で一ヶ月が経とうとしている。世間一般の恋人達がどれほどの頻度で肌を重ねているのかは知らないけれど私達は顔を合わせればそれこそほぼ毎回のように肌を重ねていた。
だから、その。自分から禁止と言っておいて私は今炭治郎を求めている。それと同時にあることに気付いたのだ。
そう、私から炭治郎を誘ったことがないことに。いつも炭治郎が「いいか?」とか口吸いから流れでまぐわうことがほとんどだったためどのように誘っていいか分からない。
でも、体は明らかに炭治郎を求めここ数日疼きが止まらない。近くにいるのに触れてもらえないのがこんなにも辛いものだとは思わず、いつもは炭治郎に甘えていたのだと反省した。

「そんなの抱いてくださーいって言えば炭治郎君もすぐ抱いてくれると思いますよぉ」

なんて簡単に言ってくれてまぁ。



しのぶさんからのお使いで宇髄さんの元へと訪れると丁度出かけてしまったらしくお嫁さんである三人が出迎えてくれた。時間を潰して来ますね、と言えばお嫁さん達にあれよあれよと連れられて何故か私は宇髄さんの屋敷の中へと案内され開口一番「炭治郎君と上手くいってる?」なんて聞かれるのだから頭を抱えた。どうやら炭治郎は宇髄さんと懇意にしているらしくそのお嫁さん達も私達のことを応援してくれているそうだ。
…こんなこと聞ける人、他にはいない。そう意を決して私はお嫁さん達に聞く。

「その…自分から床に誘ったことはありますか?」

う、恥ずかしい。顔を俯かせれば可愛い〜!と一番元気のある女性─名を須磨さんと言うらしい。彼女が目をきらきらさせながら応えてくれた。

「当たり前ですよぉ。天元様には毎日抱いてくださいってお願いしてます」
「この子と須磨を一緒にするんじゃないよ」
「まきをさん酷い!」

ぎゃーぎゃーと須磨さんとまきをさんと呼ばれた二人が騒ぎ出す。ああ、なんだか同期を見ているような気分だ…。

「炭治郎君を誘いたいの?」

一際落ち着いた綺麗な女性に声をかけられる。雛鶴さんと名乗ったその人はとても落ち着いた雰囲気を出していてまさに「大人の女性」と称していいだろう。

「は、はい…」
「そんなの抱いてくださーいって言えば炭治郎君もすぐ抱いてくれると思いますよぉ」

…須磨さんのように可愛らしい女性がそう言えば男の人は嬉しいだろう。
だけど私にはそんな言葉を素直に言う勇気も度胸もない。考えただけで恥ずかしくて死にそうになる。

「凛さん」

雛鶴さんに優しく呼ばれ顔をあげればとても優しげな笑顔がそこにあった。

「須磨みたいにするのは難しいかもしれないけど、好きな子に誘われて嬉しくない男の人はいないと思うわよ。勇気を出して」
「雛鶴さん…」

雛鶴が綺麗に笑う。女の私でも見惚れてしまうような笑顔に心が軽くなる気がした。


***


その日の夜。
炭治郎と同じ部屋で過ごしているが炭治郎は一向に私に手を出してこない。手を出してこないどころか最近はあまり顔も合わせていない気がする。…寂しいと思うのは私だけ?

『好きな子に誘われて嬉しくない男の人はいないと思うわよ』

昼間の雛鶴さんの声が頭の中に響く。

『勇気を出して』

心臓の音がうるさい。ああ、緊張する。もしかしたら炭治郎もいつも緊張していたのかな。
そんなことを考えながら私は炭治郎の服の裾をぎゅっと握る。

「? どうしたんだ凛」
「あ、あの」

あ、予想以上に恥ずかしい。炭治郎の顔が見れない。だけど、ちゃんと見なきゃ。おずおずと炭治郎の顔を見れば炭治郎は不思議そうな顔をしていた。

「し、…したい、よ」 


***


我慢は体に悪いとは今のようなことを言うのだろう。

凛にまぐわいを禁止されてから今日で一ヶ月。そして最初の一週間以外はは宇髄さんの助言通り凛に触れることも我慢した。
近くにいて良い匂いをさせている凛に触れれないのは想像以上に応えたし、最近では凛のことばかり夢に見てしまう。その、普通の夢も勿論見るのだが…俺だって男だ。そういう夢だって見てしまう。そうなると朝一番で布団の確認から始まるのがなんとも惨めだった。
今日も俺は凛と同じ部屋にいるのに触ることすら出来ない。最近はあまり顔も見ていない気がする。だって、顔を見たらまぐわいたくなってしまうから。だけどあの日あんなにも凛を怯えさせてしまったその償いは必ずすべきだ。
凛が俺とまぐわいたいと思うまでは俺もなんとか我慢を──

「?」

服を引っ張られる感覚に振り向けば顔を真っ赤にした凛が目に入る。え、なんだその顔は。
はやる心臓をなんとか落ち着けて

「どうしたんだ、凛」

と問えば凛は恥ずかしそうに顔を俯かせて上目遣いで俺を見てくる。我慢をしている俺の気持ちなんて一瞬で吹っ飛ばすような表情にンンっ!と心の中で叫んだ。

「し、…したい、よ」

……え。

「凛、それって…」
「…触って?」

凛はそう言うと俺の右手を取り自身の頬へと触れさせる。すり、と甘えるように擦り寄ってくるその仕草はあまりにも可愛らしい。首を傾げて俺を見つめてくる目には確かに欲情の色が見てとれて凛から香る匂いも期待しているものへと変わっていく。

「……いいのか?」
「…うん」

凛の許しを得た俺はすぐに凛の唇を奪う。

「…ふっ、…」

触れるような口吸いを角度を変えて数回した後、ぺろりと唇を舐めればとろりとした目をした凛は逆らうことなく口を開ける。開いた隙間から舌を潜り込ませればくちゅくちゅ、といやらしい音が部屋に響き渡る。

「…ふっ、ぅ、んぁっ……」

悩ましげな声を漏らす凛にたまらない気持ちでいっぱいになる。宇髄さんが言ってたっけ。いつも誘ってこない相手から誘われると最高に燃えるって。
それは本当だったらしい。俺は今、今までで一番興奮している。すぐにでも凛を押し倒して滅茶苦茶にしてやりたい。だけど、それ以上に大切に抱きたいと思っている。

「……っは、……ぁ、」

唇を解放すれば惚けた目で凛が俺を見つめてくる。もう下半身が痛いほどになってきた。だけどどうしてもちゃんと確認したくて。

「凛、…怖くないか?嫌じゃないか?」

あの日、嫌だやめてと叫ぶ凛を無理矢理抱いたことを死ぬほど後悔した。俺とまぐわうことも、…俺自身のこと嫌いになってしまっても仕方がないとさえ思った。だけど凛は変わらず接してくれるし今も俺に体を預けようとしてくれている。
次に凛を抱く時はちゃんと同意を得てからにしようと決めていたのだ。
俺の問いに凛は少しだけ目を大きく開いてふにゃりと笑った。

「嫌じゃないし、こわくないよ、」

いつもと違い少しふわふわとした言い方に胸が締め付けられる。可愛すぎないか?

「でも、」
「でも?」
「触ってもらえないの…さみしかった」

理性が崩壊する音が聞こえた気がした。


***


「それで?また抱き潰したと?」
「……はい」
「竈門、お前絶倫なんだな」

宇髄さんに無事許してもらえた旨を伝えに屋敷へ足を運ぶと「それでどうだった?」と聞かれたので凛をまた気絶させてしまったことを伝えればぶはっ!と声を出して笑われてしまった。

「いやあまぁ、許してもらえたならいいけどよ。抱き潰したならまたお預けとかされるのかと思ったわ」
「俺もまずいと思ったんですが。もう、本当に可愛くて。止まれませんでした…長男なのに不甲斐ない…!」
「ベタ惚れだなほんと。で?今回は何て言われたんだ?」
「任務の前日はやめてって言われました…」
「ははは!ごもっともじゃねえか!」

宇髄さんは実に楽しそうに笑う。実は俺と凛の間にあった会話はそれだけではなく…

「任務がない日はいいのか…?」
「…本当に嫌がったらやめてね?」
「それは勿論!絶対!約束する!」
「じゃあ、いいよ。…私も炭治郎が触ってくれないと…その。寂しかったから」


なんて朝からそんな可愛いことを言われれば我慢なんて出来ず迫れば、凛にお預けを食らい少し傷心なのは内緒だ…





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