利害一致



「別れたわ」
「ありゃ、どんまい」

今日も今日とて太刀川はクラスまで凛を迎えに来た。正直、参っているのと嬉しいのと気持ちは半々。太刀川に彼女が出来て、取り巻きの一人がご丁寧に「そういうことだから、分かってるよね?」と釘を刺しにきたため「はいはい」と了承して凛は太刀川と距離をとることにしたが、離れてみて太刀川と行動出来ないのは結構つまらないものだと悟った。
まさか彼女持ちの太刀川が先に根を上げるなんて全く思ってはいなかったが太刀川もつまんねーだろ。と拗ねていたのを聞いて同じ気持ちだったのは少し擽ったくて。またいつか女子達に呼び出されるのを覚悟して本部まではこうして一緒に行くことを再開したある日。太刀川は特に落ち込んだ様子もなくランク戦後にそう言ってきた。

今日は太刀川が勝ったため凛のブースに太刀川がやってきた。いつの間にか二人のランク戦は勝った方が負けた方のブースに出向いてそこで反省会だったり少し雑談をするのがお馴染みになっていた。ちなみに。ブースが混んでる時はちゃんと空気を読んでちゃんとすぐに出て行ってます。

「だからこれからは学校で避けんなよ」
「最近は太刀川くんから来ちゃうから逃げられなかったけどね」
「逃げるなよ」
「はいはい、わかったって。でもまた彼女が出来たら学校ではあんま関わらないようにするからね」

太刀川が彼女と別れたことを凛は本人から聞くよりも先に噂で耳にしていた。結局あまり距離を置くことに成功しなかったため女子生徒に恨み言でも言われるかと思ったが意外にもそんなこともなく。どうやら女子生徒のほうも太刀川に愛想を尽かしてお互い納得して別れたらしい。
とはいうものの。今回は良かったが次の彼女が嫉妬深い人だった場合はやっぱり面倒くさいことになるのは火を見るより明らかである。彼女が出来たら太刀川とはまた距離を置こうと凛は決めていた。

「それなんだけどさ、凛。俺と付き合おーぜ」
「はい?何言ってんの」
「いやいや、マジで」
「いや。マジで何言ってんの?」

聞き間違えかと思い聞き返せば太刀川は茶化すこともなく大真面目に語ってくる。

「凛と付き合ってんのかとか、協力しろだとか言われんの正直もうめんどくせーんだよ。どうせ一緒にいるんだし、付き合ったほうが楽じゃね?」
「え、なにそれ初耳。それを言うなら私だって太刀川くんと付き合ってるのとか、近付くなとかめっちゃ言われるよ」
「いやそれも初耳だけど…なら尚更いいだろ。もうめんどくせーし付き合っとこーぜ」

か、軽い。
自慢ではないが凛は今まで何回か告白をされたことはあった。あったが、こんなに軽い告白……告白なのかこれ!?は初めてで。しかもここまで仲良くしていた相手に告白されたのも初めてで軽くパニック状態である。
それこそ本気で、重く、告白をしてきたのなら断っていただろう。しかしこの男の告白は軽かったのだ。それが余計に凛を迷わせる。
太刀川の言い分は確かに分かる。凛もあの無駄な問答には結構嫌気が刺していた頃だったから。それに太刀川と行動出来ないのは退屈であり、太刀川と付き合ってしまえばそんな問題も全て解決する。確かにメリットの多い申し出である。問題は、

「でもさ、そんなんでいいの?付き合うってこう…いや私が言えることじゃないけど、ちゃんと好きな人と付き合ったほうがやっぱり良くない?」

まさに太刀川は好きではない相手と付き合って失敗したばかりで、自分は太刀川のことを恋愛として好きではないし、この感じでは太刀川もそうだろう。お互いのメリットのためにお互い好きでもない相手と恋人関係になるのはいかがなものだろうか。
そんな私の問いかけに太刀川はああ、と相槌を打って、

「まあ俺、今一番好きなの凛だし問題ないだろ」

なんて。
小っ恥ずかしいことを真顔で言うんだこの男は。

「………えぇー…」
「お。ちょっと照れてんじゃん。いけるだろこれ」
「うぅーーーん…」
「凛も俺のこと嫌いじゃないんだろ?」
「そりゃ、嫌いじゃないけど…」

むしろ、友人として太刀川はかなり好きな部類である。元々凛は男子が得意ではない。色々あって、二人きりで行動出来るのもボーダーで付き合いの長い相手と、学校では太刀川だけであった。
そんな凛にとって太刀川の申し出は正直かなり魅力的だ。でも、凛は自分が「彼女」としてはオススメ出来ないのを嫌というほど自覚している。

「私、彼氏というものに苦い記憶がありまして。あんまイチャイチャとかしたくないし、なんなら色んなこと出来ないかもしれないよ。やめたほうが良くない?」
「追々でいんじゃね?やりたくないことやらせるつもりもねーし」
「うぐぅ……」

何を言っても折れないし、折れるつもりもない。太刀川慶はこういう男だ。一度こうと決めたら何を言われようと達成するまで真っ直ぐ。例えここで断ろうと明日からも凛の教室に迎えにきて一緒に本部に向かって、隙を見せれば迫ってくることも容易に想像出来た。そしてそれを別段嫌だと思わない自分も。
うーーん、と頭を悩ませていると太刀川は確信を持ったのか楽しそうに笑って凛の目を真っ直ぐと見据える。凛が太刀川のことを理解しているように、太刀川もまた凛の性格を十分に理解しているのだ。つまり、凛がどう答えるか太刀川慶にはお見通しだということ。
観念したかのように溜息を吐くとその笑顔はますます確信めいたものになる。

「じゃあ……付き合ってみる…?」
「お、やりぃ。じゃあ今から凛は俺の彼女な」
「う、うーん?絶対後悔するよ太刀川くん。私ほんと、オススメしないよ」
「照れんなって」
「照れてない!」

こうして利害が一致したライバルであり同期であり同級生であった二人はなんだかよく分からない恋人関係を築くのだった。





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