類友



「なあ凛いる?迎えに来たんだけど」

太刀川に彼女が出来て三週間ほど経ち、ついに我慢の限界だと言わんばかりに太刀川は凛をクラスまで迎えに行くと、まだ本部に向かってなかった凛は凄い顔で太刀川のことを見てくるのだった。




「いやほんと、信じられない」
「なんだよ。おまえが俺のこと避けるのが悪いんだろ?」
「ボーダーでは全然避けてないでしょ」
「学校では避けてんじゃん」

太刀川が凛のクラスまで訪れた理由はただ一つ。いい加減俺と一緒に本部に行けよという至極単純なものであった。
それでも別々に本部に向かうとなかなか譲らなかった凛を何とか丸め込んで。というか教室で口論が続きそうになったため折れた凛と本部までの道を久々に一緒に歩く。
彼女が出来てからというもの、特に太刀川の生活に変わりはなかった。確かに昼飯は彼女と食べるようになったがその時間が太刀川は好きではない。まず話が合わない。ノリも合わない。可愛いけど彼女って退屈なんだなーと辟易していたものの別れるほどでもなかったため現在に至っている。
学校終わりに遊びに行きたいとも言われたがボーダーに行きたいという太刀川の意見を彼女が尊重してくれたこともあり別れずに済んでいるのが現状である。

そんなことより、学校で凛が明らかに自分を避けるようになったのが気に食わない。
前なら廊下で会えば話もしたのに、今は自分と会わないようにすらしてるのを太刀川は気付いていた。前までは一緒に向かっていた本部にも相変わらず一人で先に行くし、かと思えばボーダーでは普通にランク戦を受けてくる。揶揄ってんのか?と限界のきた太刀川が起こした行動があれであった。

「……あのさぁ太刀川くん。彼女とは順調ですか?」
「ん?あーまぁ。普通…?」
「私が彼女なら他の女子とこんな風に二人で過ごしてほしくないと思うけどね」
「へぇ。おまえ意外とヤキモチ妬きなんだな」
「そういう話をしてるんじゃないっつーの」

はぁー、と凛は呆れたように溜息をつく。凛は不機嫌だったが太刀川は久々に凛と本部に向かえてすこぶる上機嫌であった。呆れた態度を隠さない凛に対して太刀川は鼻歌すら歌っている。そんな太刀川の様子に凛は困ったように笑う。

「彼女とうまくいってるみたいで良かったね」
「んーまあな。でも凛といる時のほうが楽しいぜ?」
「それ絶対彼女に言わないでね」

太刀川りょーかい、と言うと凛はやっと機嫌を治してくれたのか普通に喋ってくれるようになった。前はこうやって二人で本部に向かっていたのにまさかそれが懐かしく感じる時が来るなんて思っていなかったのだ。彼女と二人きりの空間は退屈で息苦しさも覚えるというのに凛と二人きりの空間はそんなものを微塵にも感じさせない。ん?と引っかかるものがあったが太刀川は深く考えることをやめた。

「それで?彼女のどんなとこが好きなの?」
「え?別に好きじゃないけど」
「は?突然の最低発言じゃん」

太刀川の返事に凛は驚いたように、というかドン引きした表情をつくる。
いやだって。確かに付き合ってはいるけど好きかと言われれば別に。顔は可愛いけど話合わねーし。向こうが好きって言うから付き合ってるってのが現状なわけで…あれ、確かに最低か?自問自答の末、太刀川の口から気になっていたことが漏れた。

「凛は元カレが好きで付き合ったのか?」

太刀川の言葉に凛は眉を顰めてしまう。
あ、やべ。と思いすぐに言葉を足す。

「悪い。黒歴史だったな」
「なにそれ」
「嫌なんだろ、元カレの話」
「うん」

やっぱり凛は元カレの話は嫌らしい。
あの日以来聞いたことはなかったけど、黒歴史であることは間違いないだろう。
この話はもうやめとくか、と思っていると意外にも凛は話を続けてくれる。

「元カレはね、格好良かったよ」
「へぇ。そうだったのか」
「でも、別に好きじゃなかった」
「なんだ。同じじゃねーか」
「ほんと。似てるねー私たち」

嫌なとこばっか似てる、なんて言って笑う凛の表情に胸のもやが晴れるような気がした。ああ、凛に避けられてたの結構応えてたんだなと太刀川は気付いた。一緒に行動することが多くなった相手に突然訳も分からず避けられれば誰だって凹むだろう。自分だって一応人間なのだから。
さて。話してくれる気があるなら気になることは聞いておくとするか。答えたくないなら凛なら答えないだろうし。

「好きじゃないのに付き合ったのか?」
「うん」
「彼氏が欲しかったから?」

自分と同じならそれくらいの軽い気持ちだろう。
だけど凛は首を横に振った。

「好きな人がいたの」

それは初めて見せる凛の顔。
その表情に太刀川は不快な胸焼けのようなものを感じた気がした。

「でもフラれちゃって。だったら彼氏作ってやるーって…若気の至り?あ、これが黒歴史ってやつ?」

やだなー恥ずかしいね。
誤魔化すように笑いを混ぜるけどやっぱり凛はどこか悲しそうに見える。

「まあ色々あって、その彼氏とは結構すぐに別れたよ。太刀川くんは私みたいにならないようにね」

この話はこれで終わりと言わんばかりに凛はこの後すぐに話を変えてしまった。太刀川もこれ以上追求するのは良くないと察して凛の話に乗ることにした。
そんなくだらない話をしていると本部について、そしていつもの生活が始まる。
今日は凛とも迅とも風間とも、そして忍田とも手合わせが出来、太刀川は満足感に浸りながら眠りにつくのだった。



(あ、駄目だこれ)

彼女と過ごしても楽しくないどころか煩わしさすら覚え始めたある日、彼女にせがまれて所謂そういう雰囲気になった。
いつもの大人しさとは打って変わってかなり積極的に迫ってくる彼女に流石の太刀川も興奮を覚え、そして、

『太刀川くんは私みたいにならないようにね』

あの日。
どこか悲しそうに笑う友人の姿を思い出してしまい、気持ち共々萎え。そのまま初めての彼女と別れることになったのだった。





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