相談相手



好きです、と。
可愛い女子から告白されて驚きと同時にあいつの顔が過った。今目の前にいる女子よりもおっかなくて生意気で負けず嫌いのライバル。おいおい。なんでこんなの時におまえの顔が出てくるんだよ。
その女子は「返事はいつでもいいです」と奥ゆかしさ?ってやつを見せて可愛い笑顔を残してこの場を後にした。



「は!?おまえ、告られたの!?」
「誰に!?」
「あー……」
「マジかよ!?うちの学年でもトップクラスの子じゃん!」
「なんで太刀川なんだよーーこいつ馬鹿だぞーー」

あの女子は人目も憚らず教室の外から太刀川を呼び出したため、「太刀川が告白される!」とほとんどの奴が予想していたらしくクラスに戻った瞬間これである。
確かに可愛い女子だったがどうやらうちの学年でもかなり人気の女子らしく妬ましいだの羨ましいだのちょっとしたお祭り状態だ。

「でもおまえ、斎藤さんはどーすんだよ」
「凛?…なんで凛の名前が出てくんだよ」
「いや、仲良いじゃん。どっちにするんだ?」
「どっちって…、つーか凛とはそういうんじゃねーし」
「かーっ!色男は選び放題ってやつか!」

このこのっ!と何故か異様にテンションの高すぎるクラスメイト達に若干のうんざりしつつ、結局あの女子からの告白をどうするか即決することが出来なかった。






『活動限界』

ぼふっ、とマットの上に強制転送される。
昨日とは打って変わって結果は散々なもので9-1で完敗した。起き上がるのも面倒くさくてマットの上で大の字になっているとブースの扉が開き、対戦相手が入ってくる。
昨日とまるで逆だな、と。自嘲じみた笑いが漏れてしまう。

「調子悪いの?」

マットの上から立ち上がらない太刀川の額に手を乗せて対戦相手であった凛が顔を覗き込んでくる。昨日は随分機嫌が悪そうだったもののどうやら今日は機嫌は悪くないみたいだ。でも。

「誰かさんが今日も俺を置いてったからな」
「なんだ。元気そうじゃん。でも集中出来てなかったね」

そう言って凛はこれまた昨日とは逆でマットの空いている場所に腰を下ろす。
自分のことは棚に上げるがこいつには警戒心というものが足りないと思う。一応男である自分のブースにズカズカと入ってきてマットの上に座り込むなんてもう少し自覚したほうがいいんじゃねえの、と少し眉を顰める。

斎藤凛は本人こそ自覚はないが男子からの人気があった。ボーダーでは普通にしてるものの、どうやら学校ではあまり男子とは連まないらしく連絡先を教えてくれだの仲を取り持ってくれだの。凛と一緒にいることが多かった太刀川にそう頼み込んできた生徒は多かった。定期的に相談され、その度に適当な理由をつけて断るのがやがて面倒臭くなり。「ボーダーで俺より強くなったらな」という条件を付けることで頼まれることはだいぶ少なくなったが凛には一切伝えてない。きっと調子に乗るからなこいつ。

眉を顰めた太刀川に凛は何かあったの?と、声をかけてくる。何かねぇ。

「女子に告られた」
「わ、おめでと」

太刀川の言葉にさして驚いた様子もなく凛は祝福の言葉を口にする。それがなんだか面白くなかった。女子に告白された時、おまえの顔が浮かんだんだけどなんて伝えたらどんな反応をするのだろうか。…つーかなんで凛の顔が思い浮かんだのか。自分にも分からないので、藪蛇になるくらいなら口にするのはやめることにした。

「うーーーーん」
「嬉しそうじゃないね。可愛くなかったの?」
「や、かなり可愛かった」
「へー、さすが」
「でも俺、あいつのことよく知らねーしなぁ」

確かに可愛い女子だったとは思う。だがそれだけで付き合うってものなのだろうか。太刀川にはこれまで彼女どころか好きな女子すら出来たことがない。そのため返事に詰まっていたのだ。

「太刀川くんは彼女ほしくないの?」
「ほしい」
「正直でよろしい」

よっ、と。
凛は立ち上がってブースを出て行こうとする。おいおい、悩めるライバル様を置いて行く気かよ。薄情だな~と軽口を叩きながら上体を起こして太刀川は凛を引き留めようと試みた。

「もう行くのか?」
「私が口出せることじゃないしね。あ、でも付き合うことになったら教えてね」

じゃあねー、と。引き留めることに失敗して凛は太刀川を残してそのままブースを出て行ってしまった。
なんだよと呟いて起こした上体を再びマットへと沈み込める。彼女は欲しいだろ。彼女がいるってだけでなんつーか、大人になった気にもなるし。付き合うってことにも興味があった。

(まぁ、試しに付き合ってみるか…)

次の日。自分に告白した女子に付き合ってみるか。と返事をすれば女子は可愛らしく笑い、そして喜んだ。友人からは揶揄われ祝福され、自分の周りは盛り上がっていた。太刀川本人は盛り上がっておらず、むしろ何故か盛り下がっていた。





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