同級生



ボーダーに入隊してから早いもので1年が経った。太刀川はとにかくランク戦が楽しかった。手当たり次第模擬戦を申し込んだり即席チーム戦を組んで戦ったり。忙しいと言う忍田に無理を言っては稽古をつけてもらったりと間違いなくボーダーでの生活は太刀川の生活の中心になっていた。しかし、学業もしっかりしろと忍田にも両親にも言われているため高校にはちゃんと通っている。今も暑い中換装もせずに体育の授業を終えた後だ。

「ん、」

教室に帰ろうとする途中、窓際に見知った姿を見つける。コンコンっと窓を叩くと見知った相手が窓の外にいる太刀川に気付いて窓を開けたため、外とは違って涼しい空気が漏れて少しだけ暑さが緩和される。

「太刀川くん。体育だったんだ」
「あっちーよ。生身不便だわ」
「うわ、ほんとに外暑いじゃん。さよならー」
「待て待て待て、閉めんなって」

本気で窓を閉めようとするその行動を阻止すると見知った相手である凛は悪戯っ子のように笑う。
凛とは同い年であり学校も一緒であるが、それ以上にボーダーでも一緒に過ごすことが多かった。太刀川も凛も実力を持ち、そして負けず嫌いであったためランク戦を行うことが多かったからである。そうして過ごす時間が多くなれば必然的に仲も良くなっていく。仲が良くなる、というよりはお互い遠慮がなくなっていく、という表現のほうが正しいかもしれない。それはボーダーという組織の外でもこのように戯れ合うほどには。

「何飲んでんの」
「これ?フルーツジュース」
「一口くれよ」
「いいよー」

そう言って凛は飲んでいたフルーツジュースを差し出してくる。太刀川は遠慮せずに紙パックにささったストローに口をつけて一気にそれを飲み干せば凛は驚いたような声を上げる。

「え!一口って言ったじゃん!」
「うわ、甘ぇ。こんなん飲んでたら太るぞおまえ」
「うっさい!もー、今度ジュース奢ってよね」
「はいはい、ごちそーさん」

太刀川がひらひらと手を振ると凛は不服そうに眉を顰めながら窓を閉めて、だけど律儀に手を振り返してくれた。
側から見れば許されたように見えたかもしれないが太刀川には分かる。あれはマジで奢らないと根に持ちそうだな、と。あまり好みではない残っていた甘ったるいフルーツジュースに口をつけると側にいたクラスメイトの男子たちがニヤニヤとした表情で近寄ってくる。

「おいおい太刀川。相変わらず斎藤さんと仲良いな?」
「ん?まあな」
「ぶっちゃけ好きなのか?斎藤さんのこと」
「はぁー?そんなんじゃねーよ」
「いやだって、それ間接キスじゃん」

クラスメイトにそう言われ、そういえばそうだなと相槌を打つとクラスメイトは嬉々としたり愕然としたり様々な反応を見せる。またかよ、めんどくせーな。と漏らしてもその反応は変わらず。最終的にははいはい、と流すのがお決まりのようになっていた。
ふと。凛から貰ったというか奪った飲み物に目がいく。クラスメイトから間接キスと言われれば確かにそうなのだが凛とはこんなことは日常茶飯事であり、この前は太刀川の食べかけのアイスを全部凛に食べられてしまったという悲しき事件だってあった。そんな事件等に特に特別感などなく、クラスメイトが期待してるような甘い展開には残念ながら全くなっていないのが現状であった。

「斎藤さんって中学の時彼氏いたんだろ?」
「え、しらねー」

盛り上がっていた中の一人が太刀川の知らない情報を口にする。素直に返答すればそうなのか?と揶揄われるわけでもなく他の生徒も情報を出してくる。

「あ、俺もそれ聞いたことある。ちょっと大人びてるしな」
「年上とか言われてなかったっけ?」
「太刀川も早いとこ捕まえないと誰かに取られんぞ?」

曖昧な情報に興味を失いつつある太刀川に生徒はお節介とばかりにそんな声をかけてくる。
取られるも何も。自分と凛はボーダーの隊員でライバルで同級生なだけ。本当にそれだけの関係だった。
でもあの凛に彼氏がいたのは初耳だった。まあ過去形ぽかったけど。…なんか負けた気分というか悔しいというか、胸の辺りがモヤモヤする。その気持ち悪さの理由は見つけられず、太刀川ははぁー、とため息をついてゴミ箱に凛から貰ったジュースの空箱を投げ捨てるのだった。

「ランク戦してーなぁ」





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