恋人



別に前みたいに避けられてるわけじゃない。
全然いつも通りで、相変わらず凛と過ごす時間は居心地が良かった。
でも、面白くない。すっげー面白くない。

「来てたのか太刀川」
「…風間さんかぁ」
「俺で悪かったな」

前に比べるとかなり来る頻度の減った個人ランク戦のラウンジへと足を運ぶと目当ての人物は今絶好調である「小南」とランク戦の真っ最中だった。モニターを見るか悩んだけれど、なんだかそんな気分にもなれず椅子に座っていると風間が声をかけてきてそのまま太刀川の隣へと腰を下ろす。

「調子は戻ったのか」
「元々調子は崩してないんだよなぁ」
「そうか。やる気がないだけか」

風間の直球の言葉にうっ、と何も返せなくなってしまう。風間の言う通り太刀川は今、やる気がない…というかやる気が出ない。
黒トリガーとかいうインチキみたいなトリガーの存在もだが、よりにもよってそれを手にしたのは一番自分と実力が拮抗していた迅だった。そのせいで迅はS級隊員になり太刀川と個人ランク戦もしないと言われてしまった。
それだけでもつまらなかったのに、最近は凛までランク戦にハマってるのか暇さえあれば本部でランク戦をしているらしい。勝ちたい相手がいるとか言ってたけど…

「凛さぁ…」
「なんだ。痴話喧嘩か」
「いや、喧嘩とかはしてないけど…なんか勝ちたい相手がいるみたいで。そいつのせいで俺になかなか構ってくれないんですよ」

多分小南だと思うけれど。
黒トリガーに迅を取られ。多分小南に凛を取られ。踏んだり蹴ったりでますますやる気無くしちゃうよなーと流石に口には出さず心で呟いてはぁー、と溜息をつくと風間はなんだか驚いたような、どこか引いてるような表情で太刀川を見ていた。

「お前、本気で言ってるのか?」
「え、なにを?」
「……なるほど。お前も大概だったというわけだな」
「だから、なにが?」

風間が何を言ってるのか太刀川には本気で分からず、問い詰めようとしているとブースから楽しそうな声をさせながら二人の女子が出てくる。ただでさえ攻撃手は女が少ない。そんな中であんな風にきゃっきゃ、と楽しそうな声を上げれば視線が集まるのは当然のことであるが、それも今の太刀川にとっては面白くない。じと、とした目で彼女である凛に視線を送っているとそれに気付いたように凛は嬉しそうに駆け寄ってきた。

「太刀川くん!個人ソロ戦に来るの久しぶりだね」
「凛が構ってくれないから拗ねちゃってな」
「え?昨日も一緒にいたでしょ」
「うぐぅ…」

凛の言う通り、凛は別に太刀川を避けてない。というかむしろ春休みに入ったというのに前より一緒にいる時間が増えた気さえする。
まあ、そうだけど。と言葉を濁してモニターに目を向けるとそこには二人の勝敗が記されていた。

「で、小南には……勝ち越せてないな」
「いやー、小南ちゃんほんとに強いよ。勝ち越せる日来るのかなぁ…」
「でも勝ちたいんだろ?」

その言葉にえ?と凛が不思議そうに声を上げる。

「負かせたい相手がいるって言ってたじゃん」
「あ、うん。あれは──」
「なに。太刀川いるの?ちょっと、来てるならランク戦しなさいよ」

凛の言葉を遮って小南が太刀川に声をかけてくる。玉狛の小南といえば迅と同じくらい強いって言われるほどの実力らしい。本部に来ることがあまりなかったし、太刀川が個人ランク戦にハマってる時は小南は全然来なかったため手合わせしたことはまだなかった。
本来なら手合わせをしたい相手の一人だ。生意気そうなこいつを負かせでやりたい。だというのに気持ちは全然盛り上がらず。このまま戦っても本調子でない自分が小南と良い勝負をすることは無理だろうと悟り、首を横に振った。

「気分じゃないからパス」
「はぁ?なによそれ。あんた強いんでしょ」
「今日は凛を見に来ただけだから、また今度な」
「ふーん。ま、別にいいけど。風間さん、もう一戦お願いしてもいい?」
「構わない」

小南は風間を誘ってまたブースへと戻って行ってしまう。まるで以前の自分と迅みたいで、あの頃は楽しかったのになぁと。遠い昔のことを思い出すような錯覚に襲われる。

「太刀川くんはまたここに戻ってくるよ」

そんな太刀川の虚しさを悟ったのか凛が優しく、そしてどこか確信を込めた目でそう言ってくれる。

「へぇ。勝算はあるのか?」
「うん。あるよ」
「…凛が言うならそうなんだろうな」

あのバチバチとせめぎ合っていた最高に楽しい時間。あの感覚をまた味わえるのなら願ったり叶ったりだ。強い相手と戦って、勝って。反省会とか雑談とか、色んなことを凛とも話して。あの血が沸るような感覚をまた味わいたいとは太刀川自身も思っていた。

「今日はもう上がるけど、太刀川くん夜間の防衛任務でしょ?」
「ああ、そうだな」
「じゃあ…私の部屋で時間までゆっくりする?一度帰るより楽だよね」
「お、やったね。…って、あ。そうだ。俺大学から一人暮らしすることにしたわ」
「へー!本部に部屋借りずに?」
「忍田さんに相談したら「慶は大学の近くに住んだほうがいい」って言われたんだよ」
「納得しかないなー」

ボーダー様々というか。
太刀川は大学に入学することが決まった。大学には別に行かなくても良かったが、忍田の推薦のおかげでなんの苦労もせずに試験はパスすることが出来て、親は喜んでくれたので結果としては大学に行くことを決めて良かったと思ってる。何より。

「結局高校では一度も同じクラスになれなかったから、大学では一緒に講義受けれるの楽しみだね」
「…だな」

自分の横で楽しそうに笑う可愛い彼女と一緒に大学に通えるのは悪くなかった。





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