好きなもんは好き


「なんだ。またリンのとこに門が開いたのかよ」
「もしかして私に誘導装置付いてたりします?」

そう返すと諏訪さんは「んなわけねーだろ」と励ましてくれる。いい人!
最近私はイレギュラーな門から現れるトリオン兵とよく遭遇している。警戒区域内ならまだ分かる。だけど最近は至るところでイレギュラーな門が開いて町に被害が出ているらしい。その半分ほどに遭遇している私は流石に辟易してきていた。

「あながち間違いでもないかもね」
「迅くん」

この事態に最近は迅くんもよく本部に足を運ぶようで、今もきっと上層部の人たちと話をしてきたのだろう。町や人に被害が出るのはボーダーとしてはかなりまずいので、迅くんのサイドエフェクトに頼るしかないみたいだ。

「リン、ちょっとこの件が解決するまでは本部に泊まって警戒区域内からはなるべく出ないでほしいな」
「おいおい。さっきのはリンの冗談だろ?」
「えー、やっぱり私が目印なのかな?」
「おれの見える範囲ではまだまだリンのとこに門が開きそうなんだよね。ほら、リンは昔から狙われやすいじゃん?」

迅くんの言う通り私は昔から近界民にはそれはもう狙われたし襲われてきた。それはボーダーに入ってからも変わらず。もしかして厄介な体質でもしてるのかもしれない。近界民ホイホイとか。

「身に覚えしかないなー」
「本部や警戒区域内なら他の隊員も駆けつけられるし、お願い出来る?」
「いいよ。諏訪さんまた暇な時麻雀しに行ってもいい?」
「おう、いつでも来い。俺達も本部には結構いるからな」

じゃーな、と諏訪さんは私と迅くんに軽く手を上げてこの場を後にした。
ここ数年で諏訪さんをはじめかなり多くの隊員が増えた。ボーダーはますます大きくなるだろうし、前よりも遠征にも行く回数が増えてきてる。今も太刀川さん達は遠征に出向いていて、そのせいもあってイレギュラーの門の対処には手を焼いていた。

「結構すぐ片付くと思うよ」
「やっぱり?私もそんな気がするんだよね」
「忙しくなると思うからその時のために体力は温存しておいてね」
「あれ、迅くんもう帰っちゃうの?」

まあね、と迅くんは飄々とした態度で言うけどこちとら数年前から迅くんのことが好きなのである。よってそんな人の違和感に気付かないほど盲目ではない。
ぐいっ、と腕を引っ張ると迅くんは「げっ」と声を上げるけど逃しません。

「迅くん、ちゃんと寝てないでしょ」
「健康そのものだけど」
「ふーん。じゃあ換装体解いてくれる?」
「…………」
「アウト!」

はい座る!と私は半ば強制的に迅くんを長椅子へと座らせて私もその隣へと座ることにした。ここは上層部の人達へと続く廊下なのであまり人も通らない。少しくらい休んでいても構わないだろう。

「まとまった時間が取りにくくてね」
「少しでいいから休もう?」

そう言って私はぽんぽん、と自分の肩を叩く。私の意図を察してか迅くんは眉間に深く皺を寄せて何かを葛藤してたみたいだけど観念して換装を解き、私の肩にぼすっと頭を預けてきた。

「あー…ねむい……」

それだけ言うと迅くんは驚く早さで眠りについてしまう。顔色もあまり良くないし目の下にうっすら隈も出来てる。イレギュラーな門が高頻度で開いてしまう事態にきっと迅くんはサイドエフェクトを休ませる暇もなく活用しているのだろう。

(もうそろそろこの事態は終わる気がする)

私のサイドエフェクトは迅くんのように見えたり確信を持つことは出来ないけれど、物心ついた時からずっとこのサイドエフェクトが私を守ってきてくれたのだから私は誰よりも私の「勘」を信じている。
大丈夫だよ、迅くん。この緊急事態はもうすぐ終わる。そしたら沢山眠ってほしいけど……迅くんはなんだかんだいつも忙しそうにしてるからなぁ。

数年前にハッキリと振られてから、結局私は今もなお迅くんのことが好きだ。あの日付近のことはお互い全く触れなくなり、まるであの出来事はなかったかのように今を過ごしていた。
私は今も迅くんに好きだと伝えるし、迅くんはそんな私の気持ちに応えない。それでもいいかなって。だって私が迅くんを好きだと伝えてるうちは迅くんは孤独にはならないから。一人になりたがるくせに独りは嫌な迅くん。今回の件も一人で色々動いているのは分かってる。だから私はせめて迅くんの安らげる場所くらいにはなりたいな、とか思ってます。



「んー……今何時…?」
「18時。あれから1時間くらいかな」

私がそう言うと迅くんはふぁー、と大きな欠伸をして私の肩から離れていく。少し名残惜しいけど顔色は大分良くなったようだしひとまず安心かな。

「ありがと、リン。大分スッキリした」
「どういたしました。惚れ直した?」
「元々惚れてませーん」

いつも通りの軽口に本当に調子が戻ったようで安心する。思わず頬を緩めていると迅くんは少し呆れたように溜息をつく。

「そんな笑顔になるとこじゃないでしょ」
「なんで?迅くんが元気になって嬉しいよ」
「……そりゃどーも」

お礼になにか奢るよと言われたので私は遠慮なく迅くんのお言葉に甘えるのだった。





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