友人達の本音


彼女は迅を見つけるといつも嬉しそうに駆け寄っては愛の告白をする。最初の頃こそその行動に驚いていたものの今となっては当たり前の光景になっていて頬が緩む。
この間は迅がなにか申し訳なさそうにリンを探していたから喧嘩でもしたのかと思ったが今日の様子を見るにどうやら仲直り出来たみたいだ。良かった。
迅はリンの告白に返事こそしてないものの、俺からすればあの迅が特定の女子とこれだけ仲良くしているのは珍しいと思っている。その気持ちはリンと同じものではないかもしれないけれど迅にとってきっとリンは特別な存在になっているのだろう。案外あの2人はこのまま上手くいくかもしれない。その時は友人として盛大に祝ってやりたいと思う。

「迅くんにさ、フラれちゃったよ」

だからリンからそう聞かされた時はまたいつものことかと思った。だけどわざわざ俺と太刀川さんにこんな風に報告してくるのは珍しく、違和感を感じた。

「へえ、ついにか」
「どうしたんだ?迅とリンはいつもそんな感じじゃないか」

それこそ今に始まったことではなくリンは迅を好きと言うが迅はそれに応えたことはなかった。けれど明確に拒否したこともなかった気がするが…

「残念。絶対に好きにならないって言われました。失恋だよ失恋ー」
「えっ、迅がそう言ったのか?」

俺の言葉にリンがこくんと頷く。
驚いた。まさか迅がリンをハッキリと振るとは思ってなかったから。あれ。でもさっき…?

「でもおまえ、さっきも迅に好きって言ってたよな?」

太刀川さんも同じことを思ったらしくそう聞くとリンは「言った!」と言う。なので俺も釣られて聞いてしまった。

「フラれたんだよな?」
「ぐっ!」

大袈裟に胸を押さえてリンはダメージを食らったような反応をするのでごめん、と言えばその言葉すら痛い…!と言われてしまう。
つまり…リンはフラれてもまだ、

「そうか。リンはまだ迅のことが好きなんだな」
「好きー…」
「そうだよな。すぐには切り替えれないよな。仕方がないと思うぞ」
「准くんは優しいね…」

迅の前ではいつも通りに振る舞っていたリンだったけれどやっぱりダメージは大きいみたいだ。そうだよな。あれだけ好きだと伝えていたんだから、リンの想いは本物だったのだろう。

「ふーん。ならリン、俺と付き合ってみる?」
「「は?」」

太刀川さんのいきなりの申し出にリンと声が重なってしまう。いや、どうしてそうなるのか。

「いや、ないでしょ」
「なんで。迅にはフラれたんだろ?」
「フラれたけど、まだ迅くんのこと好きだし」
「でも迅はリンのこと好きにならないんだろ?」

グサグサと太刀川さんはリンがきっと言ってほしくないことを言い続けるのでリンは涙目になって俺の腕に抱きついてきた。

「准くん!太刀川さんがいじめる!!」
「太刀川さん、いじめちゃダメだぞ」
「え、俺本当のことしか言ってなくね?」
「正論パンチは禁止です!」

はっはっはとどこか楽しそうで、そしてどこまで本気か分からない太刀川さんに俺も困ってしまう。

「なーにやってんの3人で」

そしてそんな場面に話題の中心でもある迅まで現れてしまった。

「よお迅。このストーカー女のことついにフったんだろ?」
「太刀川さん、相変わらずぶっこんでくるねー」
「それでも私は迅くんが好き!」

なんだか場が混沌としてきたな…。
本来ならこの場にいることすら気まずいような会話内容だけど、当事者のリンや迅が思った以上にいつも通りなのでそこまでの居辛さは感じられない。いや、さっきまでリンは結構落ち込んでいたから迅が来て強がってるのかもしれないな。それなら、一旦リンをこの場から逃したほうがいいかもしれない。

「おまえがいらないなら俺がもらってもいいよな?」

そんな俺の考えを口に出す前に太刀川さんがまたしても気まずいことを言い出す。え、太刀川さんってリンのことが本当に好きだったのか?ストーカーって言ってるのに?

「それはおれが決めることじゃないよ」
「俺は迅に聞いてるんだよ。いいんだな?リンがおまえ以外の男のものになっても」

太刀川さんの言葉に迅は何も答えない。お互いに目を逸らさずに、お互いの真意を読み取るように。

「やめて!私のために争わないで!」

そんな2人の間に割って入ったのはさっきまで俺の腕にしがみついていたリンだった。

「争ってないよー」
「やっぱりストーカーはなしだな」
「は!?弄んだの…!?」
「はいはい。リン、今日の防衛任務の位置に変更があるから確認しに来てくれる?」
「了解。じゃ、准くん太刀川くん。またねー」

リンと迅は俺達に手を振ってこの場を後にした。残された俺と太刀川さんはそのままお互いの隊室へと向かいながら歩いていると太刀川さんが大きく伸びをして深く溜息をついた。

「あいつ、いつまでシラを切るつもりなんだか」

太刀川さんは呆れたようにそう吐き捨てる。
なるほど。そんな素振り今まで全くなかったとは思ったけれど。

「やっぱりわざとですか、さっきのは」
「まあ別にあのストーカーと付き合うのも悪くねえけど、どうせ今みたいに迅が邪魔しにくるんだろ」
「見えてたんだろうな」

あのタイミングで迅が現れるのは都合が良すぎる。恐らく太刀川さんがリンに迫るところが見えたのだろう。
迅がリンを振ったのは事実だ。だけど俺から見ても太刀川さんから見ても多分迅は…

「色々考えすぎなんだよ迅は」
「同感です」

考えることや選ばなければいけないことが多すぎる迅。でも、その気持ちくらいは自分のことを優先してもいいはずだ。そう言っても迅はなかなか自分を優先することが出来ないんだろうな。
2人の友人にただ幸せになってほしい。俺も太刀川さんもままならない気持ちを抱えながら各々の隊室へと戻って行くのであった。





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