どう見てもストーカー
おれには未来が見える。そんな完璧に全てが分かるってわけではないんだけどね。ちょっとある理由からおれは彼女とか、なんなら女の子から告白みたいなものを受けることすら避けるように行動をするようになっていた。自惚れてるわけでもないけどわざわざ好感度を下げないと好意的に思ってくれる子が見えることもあったからさ。そういう時は距離を置いたり、釘を刺したりと。そんな感じで告白されるまでも持ち込ませずにのらりくらりと交わしてきたわけ。
なのに
「や、迅くん。今日も格好良いね。好きよ」
「………はぁーーー…」
「おっきい溜息!気分転換にどっか遊びに行く?」
まさか自己紹介よりも先に告白してくる奴がいるなんて流石のおれだって読み逃すよ。
「行かない。実力派エリートは忙しいんでね」
「うんうん。優秀だよね迅くんは」
「リンは今日非番でしょ。暇なの?」
「ここに来たら迅くんに会える気がして」
ふふんとリンは満足そうに笑い、おれはまたしても大きな溜息をつくこととなった。
「だったら未来を見て避けることは出来ないのか?」
嵐山が誰もが抱くような疑問を投げかけてくる。おれの未来予知を使えば特定の人物と距離を置くことは容易だった。そう、リン以外は。
「怖い話していい?」
「いいぞ!」
「どの未来にもさぁ、リンがいるんだよね」
「……えっ!」
おれの言葉に嵐山が驚いた声を出す。だよねー、おれも驚いたよ。もはやホラーだからな。おれの未来の分岐点、どこに行っても嬉しそうなリンが写り込んでくる。いや、流石に玉狛にいる時とかはいないけれど本部での遭遇率は100%だ。用事を後回しにしようとしても、じゃあ先に片付けようとしてもどこかで出会う。
「発信機とか仕掛けられてるのか?」
「怖っ!…嵐山、おまえも苦労してるんだな」
「いや…ははっ、」
嵐山が困ったような笑いを溢す。…広報担当ってのも楽じゃないんだな。せめて嵐山が変なことに巻き込まれる前におれのサイドエフェクトで読み逃さないように気を付けよう。
「発信機とかはないよ。あいつさ、自分は勘がいいって言うんだよ」
「勘?」
「うん。もしかしたらリンも何かのサイドエフェクトがあるのかもしれない」
「なるほど!……迅探知能力ってことか?」
「いやいらないなーそのサイドエフェクト」
嵐山の真剣なのかボケなのかよく分からない言葉に笑いを溢してしまう。
そんなヘンテコなサイドエフェクトではない……と思うがリンは間違いなく何かのサイドエフェクトを持っている気がする。一度上に調べてもらうのもアリだろう。リンのためにも。…おれのためにも?
「よう迅。まだあのストーカー女に付き纏われてんの?」
「太刀川さん。ストーカーって…うーん、まあ遠からずってとこだけど」
「嫌なら嫌って直接言えばいいじゃねーか。あいつ結構サッパリした奴だぜ?本気で拒否すればやめると思うけど」
太刀川さんの言う通りリンはおれが本気で拒否すれば引き下が……るか?
…生憎そんな未来は見えないし、おれが拒否する分岐自体今は存在しないみたいだ。
「うーん、まあ実害があるわけじゃないし…」
「嫌いじゃねーの?」
「別に嫌いではないよ」
「というか好きだよって言っていいんだよ?」
「うわ出た!ストーカー!!」
いつの間にか俺たちの後ろに忍び寄っていたリンががっしりとおれの腕にしがみついてそんなことを言ってくる。ああ…確かにおれの腕にしがみ付くリンが朝見えたなぁ…。
太刀川さんのストーカーという言葉も全く気にせず上機嫌で俺の腕を離さないリン。最初こそ離してだのおれのとこ来なくてもいいよだの。言ってみたもののリンは「いやでーす」と満面の笑みで断ってきたので太刀川さんにも言った通り実害はないため放置することにした。
今まで距離を取ったり軽く拒絶すればそれ以上踏み込んでくる女の子はいなかったんだけどな。リン…変な子。
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