読み逃した未来


本当に鬱陶しい。
いつもいつも、いつもいつもいつも。
こいつらは私を見つけるとしつこいくらいに追ってくる。絶対に捕まえられないのに。だからと言って逃げないわけにもいかず、陸上部でもないのに私は小さい頃からずっとこいつらから逃げ回っている。逃げ道は分かる。どうして分かるのかは分からないけど、私には逃げ道がいつも手に取るように分かった。

「っ!」

今日私を追いかけ回しているのは昆虫のような形をしている化け物でいつものデカいだけの化け物よりもスピードが速い。だから私も絶対に捕まらないように全速力で走っていて、そして思い切り転んでしまった。派手に転んだせいでぽたぽた、と血が垂れる。痛む鼻を押さえるもののなかなか血が止まらない。膝や手も思い切り擦りむいたみたいでズキズキする。
あれ、おかしいな。こっちに逃げればいつも通り助かるはずなのに。痛む足は悲鳴を上げていてこれ以上走りたくないと私に訴えかけてくる。でも、逃げないと。

次の瞬間。
昆虫のような化け物は真っ二つになりその活動を止めた。何が起こっているのか分からず半ば放心していると一人の男の子が私のところへ歩いてきて手を差し伸べてきた。

「危なかったな。無事か?」

感じたことのない衝撃だった。
まるで少女漫画のワンシーンのような完璧な構図。さながら白馬の王子様、とでも表現するのが正しいだろうか。加えて顔も声もなんなら体つきも好みだ。

「うわー結構怪我してるね。病院に行ったほうがいいと思うよ」

鼻血出てるよ、と男の子はハンカチを手に取り私の鼻にそっと当ててくれる。そしてこの場を立ち去ろうと後ろを向いてしまうので、

「あの、名前。名前を教えて」

咄嗟にそう伝えると男の子は振り返って

「迅。おれは迅だよ。またね」

それだけ言い残してこの場を去ってしまった。





「今期の新人にすげーのがいるって聞いたか?迅」
「へぇ。何かあったの?」
「トリオン測る機械がバグったらしいぜ。前代未聞のトリオン量だとよ」

今期はトリオン量の多い新人が多いと聞いている。ボーダーもだいぶ人数が増えてきた。数年と経たないうちにまたここは戦場になることもあるだろう。今見えているということはこれは避けられない未来ということだ。その時のためにも太刀川さん達のような腕の立つ隊員が一人でも多くほしい。おれと太刀川さんは新人が集まっているであろうブースに足を向けると懐かしい顔を見つけた。

(あれ、あの子)

1年前に助けた子だ。
おれは別に助けた相手の顔を全員覚えているわけではない。ただ、あの子を助けた時…初めて会った時だな。あの子がおれと一緒にいる未来が「見えた」。しかも結構な量が見えたからいつかはボーダーに入るのだろうとは思っていたけれどあれから1年ほど経っていたのでそんなことはすっかり頭の隅にやってしまっていた。

(そっか。やっぱり隊員になったのか。それにあれだけ見えたってことはおれと何かしら縁はあるんだろうな)

あっちはおれのことを覚えてるかは分からないけどいつか知り合う時が来るだろう。そんなことを思っているとばち、と彼女と目が合った。

「見つけた」

目が合ったかと思ったらどんどんこちらへと近付いてくる。え、まてまて。なんだこの未来?
彼女を通して見える未来が何かおかしい。でもみんな笑顔になってる。悪い未来じゃないのか…?
そんなことを考えていると彼女はあっという間におれの目の前まで来て、いつの間にか俺の手を握っていた。

「私のこと覚えてますか?迅くん」
「えっと、前に助けた子だね」
「そう。あの日からずっとあなたのことが好きでした。幸せにするのでお付き合いしましょう!」

…………。はい?

「あ、私斎藤リンっていいます。リンって呼んでください。敬語もやめちゃいましょう。よろしくね、迅くん」
「いやいやいや、待って待って?ちょ、……なに!?」
「なんだよ迅。これは読み逃してたのか?」

モテモテじゃねーか。とおれと一緒にいた太刀川さんはニヤニヤしてるしその場にいた隊員たちも好奇の目でおれ達を見ている。
読み逃してた。完璧に。いつかは縁が出来るなんてもんじゃない。なんだこの押しの強さ…!?

「いや、付き合わないけど」
「お友達からってやつ?」
「いや……ずっと付き合わないけど!?」
「そう?私はいつか迅くんと付き合う気がするけど」
「おまえ面白れーな。なんでそう思うんだ?」

おれに振られたというのにまったく引き下がらない様子の彼女に太刀川さんが面白そうに尋ねる。勘弁してくれ。こっちは軽くパニックだ。だって、

「だって、私の勘がそう言ってるもの」

おれのサイドエフェクトもずっとこの子といる未来を写しているのだから。






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