逃げて追って


チカちゃんに敵が集まるほうが被害が一番少なくて済む。リンのトリオンの多さをバラすと人型が二手に分かれてしまう可能性がある。だからリンにはメテオラは使わないように言っておいた。そうすればリンはあいつらに見つかることはなく、敵の狙いはチカちゃんだけに絞られるから。

「………最低だな、おれ」

これが最善の未来への一手だと言うことは嘘ではないけれど、私情を挟んでないかと問われればおれは肯定できるのだろうか。それこそ遊真の前で肯定出来る自信がない。その時点で1ミリでも私情が入ってしまっているのは明らかだった。





迅くんに避けられている。
私のサイドエフェクトのおかげで迅くんが本部にいる限り会えないことはなかったけれど、私を見つけると迅くんはすぐにどこかに行ってしまう。メガネくんの容態とアフトクラトルの人型が執拗にチカちゃんを狙っていたと聞いてなんとなくは察した。ああ、あの子が囮にされたのかと。私よりもトリオン量の多い玉狛支部の雨取千佳。彼女がボーダーに入隊していなかったらきっと私が彼女の役だったのだろう。そしてチカちゃんを囮に使ったのは間違いなく。

「でも私が避けられる理由ではなくない?」
「…まあ、迅は優しいからな」
「あー…責任感じちゃってるのか」

私の疑問に准くんは困ったように眉を下げる。未来視が出来る迅くん。今回の大規模侵攻での攻防もきっとパズルのように彼が組み立てたのだろう。それだけでも荷が重いというのに責任まで負おうとするなんて一人の人間の背負っていい重さじゃないよ。

「ん?でもやっぱり私が避けられる理由ではなくない?」

メガネくんやチカちゃんに責任を感じることはあっても私にはないだろう。むしろ私はメテオラを使うことを禁止されたおかげで人型近界民に察知されることなくトリオン兵やラービットの相手をしただけで済んだのだから。

「リンはどうして迅がリンにメテオラを使わせなかったと思う?」
「可哀想だけど、チカちゃんに狙いを絞らせるためでしょ」
「ああ。表の理由はな」
「おもて?」
「確証はないけど、俺は多分迅がリンを避けてる理由はそれだと思うぞ」

准くんの言ってる意味は私が自惚れるのには十分であったけれどそれはないだろうな、とどこかで諦めていた。





「や、迅くん。良い夜だね」
「…そうきたか」
「まあね。防衛任務区域からは流石に逃げられないでしょ」

私の言葉に迅くんは諦めたように溜息をついてその場に座り込んだので私もその隣へと座り込むことにした。本部ではどうあっても私から距離を取りたがるため私は迅くんの防衛任務の担当場所と時間を調べてここに来たのである。自他共にストーカーと言われてもしょうがないと思うけど別に気にしていない。

「ついに私のこと嫌になった?」
「へぇ、なんでそう思うの」
「これだけ露骨に避けられたらまあね。迅くんが私を好きにならないのは理解してるけど避けられるのは地味に傷つきますー」

迅くんと知り合ってから。それこそ勢いで体を重ねた後だってこんな風に避けられることはなかった。迅くんが私のことを好きにならないと言ったあの時から、それならそれでもいいかと腹は括っていたけれど。

「私は迅くんのこと好きだけど、迅くんが嫌なことはしたくないから…もう近付かないでって言うならそうするけど」
「極端じゃない?」
「どの口が。極端なくらい急に避けてきたくせに」

べー、と舌を出して少しだけお返しをしてやる。迅くんにこれだけ避けられるのは初めてで結構傷付いたのだからこれくらいは許してほしいし、嫌なら嫌でハッキリ言ってもらったほうがお互いのためにもなるだろう。

「リンさ、おれのことほんとにまだ好きなの?」
「好きだよ」
「おれのことなんも分かってないのに?」

なかなかに辛辣なことを言った迅くんは、
何故かひどく悲しそうに笑っていた。






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