つよい相手



今回の私の任務は遠征先でとにかく派手に暴れること。場を混乱させればいいと言われた。正直楽な任務だ。トリオン使いを生け捕りにしろという任務がいちばん嫌い。生身の人間を相手にするのはどうしても気が引ける。なんて。いつまでも最後の手を汚さずにいれるとは思ってはいないけど。命を粗末にしてはいけないよ。私を育ててくれた爺様はそう教えてくれたから、せめてその教えだけは守りたいと思っていた。

「おまえにも働いてもらうぞ」
「はい」

今回の遠征を指揮するハイレイン様にそう言われ私は返事を返した。私の主はどうやらこの方に恩を売りたいようだ。もし成果を残せなければ帰ってこなくていいと言われたのだから。私が遠征先で成果を残せなくても戦死でもすれば恩を売れると思っているのだろう。私の命にはそれくらいの価値しかない。主は今までどれだけの奴隷を死に追いやったのか。…もう思い出せない。この遠征先で成果を挙げられなければ次はきっと私の番だろう。

エネドラ様とヒュース様が何か言い合っている。私はそれを聞かないように目を閉じた。どうでもいい。つかれる。
命を粗末にしてはいけないという爺様の教えを守ってずっと生きてきた。でも、生きるってなんだろう。考えても答えの出ない問いを手放して私は近々始まる戦いに備えて瞑想に専念するのであった。





弱い。敵地へと転送され数人を切り伏せた私の抱いた感情はそれだけだった。
この国の兵士は斬ると皆飛んで行ってしまう。生身のまま敵前に姿を晒さないためだろうか。…考えても分からないことを思考しても意味はない。雛鳥を1人でも多く確保する時間を稼がなければ。


「えっ」

この場に到着した兵士が間の抜けた声を出す。背を見せていればすぐに斬りかかってくるかと思ったけれどそんな雰囲気はなかった。振り返るとそこには長身の男が立っている。武器は刀。先程までの相手とは違ってなかなか隙が見えない。上官、ならば知っているだろう。

「斬ると、みんな飛んで行ってしまう」

私がそう呟くと男は楽しそうに頬を緩ませる。ここが戦場だと理解していないのだろうか。

「ああ。俺らの国ではそーなってんだよ」

隠すこともなく男はそう答えた。

「どうして?」
「戦場で生身に戻ったら危ないだろ」

危ない。
戦地に出ている兵士に対しての、気遣い?
本当かどうかは分からないけれど実際斬り伏せた兵士はこの場に留まらず離脱に成功している。命を粗末にしていない。

「そう。いい国ね」

だけど私には関係ない。敵は斬る。それだけを胸に男に斬りかかると男は私の太刀を難なく受けこなす。どこか笑みを浮かべながら。

(つよい……)

これほどの使い手と手合わせするのは久々だ。どう打ち込んでも遮られ、隙を見せていないつもりでも反撃してくる。トリオン体に腕力の差はない。しかし体格差や腕の長さの差で攻めづらい。それだけでなくこの相手はどこか防戦に徹している。おそらく時間稼ぎだろう。…付き合っていられない。一度距離を置いて、


「──旋空弧月」





おいおいマジかよ。
どっからどー見てもふつーの女にしか見えねーってのに剣の腕ありすぎだろ。俺くらいの腕がなきゃ太刀打ち出来ねーんじゃねえか、これ?

迅が俺にこの子を任せると言ったわけがよく分かる。忍田さんならともかく他の奴らじゃ初見で大体ベイルアウトしてしまうほどの速度。一瞬の隙も見逃さないという視線。ゾクゾクする。やべえ、楽しいなこれ。
本当ならもっと攻めていきたいものの迅に「防戦で」と何度も釘を刺されたため流石に俺もそれに従っていた。確かに守りを捨てていたらさっきは腕を取られていたかもしれない。トリオン体に個体差はないと言ってもこいつは俺より小さく小回りが効く。油断すればすぐに懐に入ってくるだろう。

(やっべ、まじで上がってきたわ)

高揚感が抑えきれない。これだよこれ!強い相手との勝負はこれだからやめられない!
女が俺から距離を取る。その一瞬を見逃さず俺は

「旋空弧月」

旋空弧月をお見舞いしてやった。まだ着地して体勢も整ってない。避けられたとしても足一本はもらえんだろ。そう思ったが女はギリギリのところで旋空弧月を避け切っていた。

「──はっ」

トリオン体でよかった。
俺は今、滅茶苦茶興奮してる。




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