狙いを定めて


太刀川隊に入ったリン。ログで見たがなかなかバケモンじゃねーのと当真は笑いを漏らす。あの隊は太刀川と出水だけでも厄介だったというのに、更にあんな奴を一体どこから引っ張ってきたんだか。表向きは数年前にボーダーに所属していたものの、離脱していてまた戻ってきたからA級部隊に特例として入れた…とかなんとか言ってたけど嘘だろうな多分。そんな嘘をつく理由は当真にとっては正直どうでもいいことであり興味もなかった。今はただ、あの新人を撃ち落としたい。当真の頭にはそれだけしかなかったのだ。

(…誘ってんな。隙があり過ぎる)

なかなか隙を見せないならやりやすいものの、明らかにリンは隙が多い。ログで見た時はあんなに隙だらけではなかったため、間違いなく狙撃手を。もしかしたら自分を誘い出そうとしているのではないかと当真は考える。我慢出来ずに釣られて狙撃をした古寺は居場所がバレて太刀川に獲られた。なるほど。唯我よりも高級な餌ってところか。

(でも……)

攻撃を受けた直後。シールドも割られたこの瞬間は体幹もずれ、反応も遅れる。何より目の前の相手に集中している可能性が高い。
風間と菊地原の連携によってリンのシールドを破られたその瞬間、当真は引き金を引いた。間違いなく獲ったと確信をして。

「は?」

確実に獲ったと思ったリンは片腕一本を犠牲にして当真の狙いを凌ぐ。それは当真からするとなかなか受け入れ難いものであった。あの混戦の中、自分の位置だって特定出来てなかったはずだ。だというのにリンはまるで「待っていた」かのように片腕を捨てて当真を見つけ出した。誘い出されたのは当真だったのだと、理解する。スコープ越しにリンと目が合う。この距離で、リンは確かに殺気を込めた視線を当真に注いでいた。

『当真、さっさとテレポートしろ!』

オペレーターである真木の怒鳴り声に現実に引き戻された当真はすぐにテレポートをするための行動に移る。しかしたった少しの間だったがそれは致命的なミスであり、

「一手遅かったな、当真」

バッグワームをつけたままの太刀川は既に当真を見つけ出し、当真が何かをする暇もなくその首を斬り落とすのだった。





真木からの説教は凄まじいものであった。見つかったのはいい。だが何故呆けていたと。ぐうの音も出ない正論に当真は素直に謝罪をし、隊長である冬島はまあまあとその場を取り持ってくれた。その後、解放された当真はどうしてもあの新人と話がしてみたいと思い至り足を進める。目的地の扉の前へ着いてノックをするとさっきまで一戦を交えていた相手が出てきた。

「あれ、当真さん。どうしたんすか」
「よぉ出水。調子いいじゃねーの」
「絶好調っすね。太刀川さんは今個人ブースに行ってて留守ですよ」
「ああ、そっちじゃねぇ。今日はお前んとこの新人とちょっと喋りたくてな」
「リンと?」

当真を出迎えてくれた出水はちょっとだけ考えたあと「まぁいっか」と言って作戦室に当真を招き入れる。以前来た時よりも少し片付いたように見える太刀川隊の隊室の奥へと進めば、お目当てではないほうの隊員が当真の姿を見つけて大袈裟なリアクションを起こす。

「げぇ!当真先輩!!」
「おう唯我。今日は結構生き残ってたじゃねーか」
「え、そ、そうですか…?まあいつもは当真先輩に落とされますが今日は逃げ切りましたからね!」
「ああ、今日はおまえは狙ってなかったからな」
「眼中になしと!?」

相変わらず可愛げのある唯我の相手をしつつ、出水の後をついて行く。当真の目当ての新人は国近と一緒にモニターを見ていて、出水が名前を呼ぶと顔を上げた。

「リン。当真さんが話したいって」
「あ、お疲れー。珍しいねうちにくるなんて」
「トウマ?」

太刀川隊に入隊した新人、リンと目が合う。スコープ越しに目が合った時は違ってそこに獲物を見つけた時のような勇ましさはない。
それはそうと、遠くから見ていた時も思ってはいたが近くで見るリンは美人だと素直に思った。太刀川隊に新人が入ったという噂が回ってきた時、その新人がすげー美人と騒がれていたのを覚えている。ログで見ても、ランク戦をしても確かに目を引く容姿だとは思っていたが間近で見ると本当に迫力があるなと当真は一人納得する。

「よ、今日はどーも。俺は当真勇。よろしくなリン」
「よろしく」

そう言って手を差し出せばリンはその手を握ってくれる。大人しめで、太刀川の今までの女とは全然違う。太刀川は自分の隊に自分の女を隊長権限で入隊させたんだ!と根も葉もない噂も立っていたが太刀川の好みって感じでもないリンが太刀川の女という情報はガセである可能性が高いと当真は踏んだ。
結局、リンの実力が知れ渡ればそんな噂も風化していったのだけど。

「で、当真さんはリンに何が聞きたかったんすか?」
「ん?ああ。なんで俺の狙撃が避けられたのか気になってさ。俺の居場所バレてた?」
「…話してもいいの?」

当真の言葉にリンは出水と国近を交互に見てそう尋ねる。ボーダーという組織では仲間同士であるが、ランク戦を行う立場としては当真とリンはA級一位と二位のライバルである。敵に情報を与えるのが得策とは確かに言えない。だが当真には勝算があった。太刀川隊はあんまそういうことを気にしないことを知っていたから。

「別にいいんじゃね?」
「太刀川さんが聞かれても話しちゃいそうだしね~」

案の定というか、やはり太刀川隊は聞かれたことに隠し事をあまりしない。これだけ情報をオープンにしているのに当真たちA級隊員は太刀川隊に勝ち越すことが出来ない。それほどに強いチームなのである。
二人の承諾を得たためリンは当真の目を見て今回の戦闘について話し出した。

「トウマの戦闘ログを見て、トウマは強引にでも釣り出さなければ落とせないと思った」
「お、嬉しいこと言ってくれるじゃねーの」
「だから今日の戦闘はただトウマの狙撃だけを待っていた。トウマを誘い出していたらコデラが釣れたのは運が良かった」
「は?あれだけ動き回ってたのは全部俺を釣るためにやってたのか?」

当真の言葉にリンは頷いて、出水と国近は作戦通り!とでも言いたそうにニヤニヤとしている。
確かに誘っているとは思ったがそれにしたってリンは最初からずっとバッグワームも付けずに動き回っていたし数人落としている。その全てが自分を釣り出すための動きだったのだとしたら、それはあまりにも贅沢なリンの使い方ではないだろうか。

「でもなかなか撃ってこないから敢えてシールドを捨てた。トウマが優れた狙撃手だとは分かっていたし、あの乱戦で撃たないはずがないと思っていたから避けれたけど、片腕を捨てなければならなかったのは正直誤算だった。…という、感じ」
「あんだけ派手に動いてたのは全部、俺を釣り出すための罠だったってわけか」

当真の言葉にリンはこくり、と一つ頷いた。これだけの実力を持つ相手が自分一人を炙り出すためにあれだけ派手に動いてたって事はどうやら本当らしい。それは光栄なことだがまんまと落とされたのは素直に悔しかった。だがそれ以上に、

「ふーん。おもしれーじゃん」
「うちのリン、やるでしょ?」

出水が誇らしげに言う。
出水だけではない。国近も嬉しそうに頬を緩ませている。こんな時期に新人を、しかもA級一位の隊に入隊させるとか正気か?と思っていたがリンは太刀川隊で上手くやっているのは見ればすぐに分かった。

「やるなんてもんじゃねーよ。リン。今度は絶対俺が撃ち落とすからな」

そう言うと今まで表情を変えなかったリンがほんの少しだけ楽しそうに頬を緩ませた。今まで表情を変えてこなかったため、不覚にも心臓が一つ跳ねる。それは、なかなかの破壊力じゃねーの。





思っていたよりも全然話しやすく何よりも目の保養になる見た目に満足をし、次こそは必ず撃ち落としてやろうと当真は良い気分で太刀川隊の作戦室を後にすると、見覚えのありすぎる人物が目に入ったため当真はひらりと手を振ってその人物に声を掛ける。

「太刀川さん。もう個人戦終わったんですか?」
「当真。珍しいなこんなとこにいるなんて」
「今まで太刀川さんとこの作戦室に行ってたんですよ」
「うちに?」

さっきまで自分が出向いていた作戦室の隊長である太刀川に偶然出くわし、そう伝えると太刀川は不思議そうに首を傾げる。なんで当真がうちの作戦室に来るんだ?と至極真っ当な質問に当真は笑みを交えて答える。

「太刀川さん、良い新人が入りましたね。今日はまんまとやられました」

その言葉に当真の目当てが誰であったのか太刀川は瞬時に悟り、楽しそうに笑う。

「ああ。いいだろ」
「で、付き合ってるんですか?」
「さあ、どうかな」

当真の質問に太刀川にしては珍しい返事が返ってくる。それは当真が思わず面食らってしまうほど。
太刀川慶という男はモテる、かは知らないが女といるところを見かけることは多かった。外では美人と一緒にいることがあったり、それこそ付き合ってることもあったのだ。その度に今と同じように聞くと「んーまあ」という生返事か「は?付き合ってねーよ」の否定しか返ってきたことがなかったというのにリンとの関係に関しては楽しそうに答えた。
これはそういうことなのだろうか。そして、断言しないってことはまだ、手を出してないってとこかと当真は予想した。

しかしながら当真も少なからずリンのことが気に入っていたのだ。いつもなら太刀川に尋ねても肯定しかされなかった言葉を今回も吐いてみる。

「じゃあ俺が狙ってもいいですかね」
「ダメ」
「えっ」

おーいいぜ。それが太刀川のいつもの返事であったはずが今回に限っては即答でダメだと一刀両断されてしまう。太刀川のそんな反応を初めて見た当真が次の言葉を吐けずにいると、太刀川は少しだけ笑って「じゃーまたなー」と緩い挨拶を残してこの場を後にした。
いつも通りの太刀川に内心ホッとする。ダメとと言った時の太刀川には有無を言わせない何かを感じたからだ。

「えー…超おもしれーのな」

色々な考えが頭を巡るがとりあえず。
太刀川のお気に入りで、そして自分のお気に入りにもなったリンを今度こそ絶対に撃ち落としてやると心に決めて当真は自分の作戦室へと戻るのであった。



「ケイ?」
「リンちゃんはさー、厄介なのから好かれるよなぁ」
「え~それって太刀川さんのこと?」
「半分正解~」

帰ってきた太刀川に後ろから抱き締められたリンは太刀川の言葉の意味を一切理解しておらず。思ったよりも体重をかけてくる太刀川の体に重さも感じていたものの、その体温が心地良かったため何も言わずにそのまま堪能するに至るのであった。




back


×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -