ちょっと大変かも



「床でいい」
「女を床で寝かせる趣味はねーよ」

俺の提案にリンは渋い顔をする。
俺の家にはベッドは一つしかない。一人暮らしだったからな。普通のシングルサイズのベッドだから2人で寝るには狭く、寝れないこともないけど…流石に駄目だろう。忍田さんの顔も過ぎるし。だから俺はリンに「ベッドを使っていいい」と提案をした。俺はソファーで寝るし、つーかソファーで寝ることも多かったから問題ないしな。だというのにリンはなかなか了承しない。

「家の主であるケイから寝床を奪えない」
「へぇ。じゃあ一緒に寝るか?」
「それで構わない」
「えっ」

即答された返事に呆気を取られているとリンが俺の腕を引っ張ってくる。待て待て。それは流石に試されてるというか、生殺しというか。

「いや、やっぱり無理だって」
「どうして?」
「ぜってー我慢できん」
「? なにを」
「えー……」

ぶかぶかの俺の服を着て首を傾げるリン。普通に可愛いしいつもの俺なら儲けもんだとこのままヤってるだろう。余裕で勃つし。
だけど忍田さんに釘も刺されたし、それに……兎にも角にも俺は今、リンとヤる気はない。だからと言って同じベッドで寝たら我慢出来る保証もない。ガシガシと頭を掻いて俺はリンの頭にぽん、と手を置いた。

「変なこと気にしなくていーから。な?俺からのお願いってことで聞いてくれ」
「……ケイが、そう望むなら…」

やっと折れてくれたリンに安堵しながら俺はリンをベッドに促した。不服そうにするリンをさっさと寝かせてしまおうと掛け布団を羽織らせると観念したのかリンはそのまま目を閉じる。

「ん、ケイの匂いがする」

なんて。
少し声を弾ませたリンに深く溜息をつきながら俺は寝室を後にしてソファーへと身を投げた。
リンとこれからこの家で一緒に生活をしていく。それ自体は良いんだけど、もしかしたら良くないかもしれない。それはリンがどーのこーのじゃなくて、俺が常に試されることになるからだった。








「太刀川さんってリンと一緒に暮らしてるんすか?」

リンと一緒に暮らし始めて暫く経った頃、出水が俺にそう尋ねてきた。本部に来る時や帰る時は常に一緒に行動しているし、スーパーに寄ってから帰るか。なんて会話も普通にしていたからバレたのだろう。隠すつもりもないから別に良いけど。

「おう」

俺が即答すると出水はへぇー、と特に驚いた様子もなく生返事をした。だけど次の質問は少しだけ口篭ってから俺に投げかけてきた。

「もしかして、もう手を出しちゃいました?」
「出してねーよ」
「え、珍しい」
「出水。おまえ俺をなんだと思ってるんだ」

そりゃあ、出したいけど。
そんなモヤモヤを飲み込んで事実を伝えると出水は一緒に暮らしているとバラした時より驚いた反応をする。
なんだよ出水。俺がすぐ女に手を出す男だと……まあ…間違ってないか。

「リンと仲良いし、可愛いし。逆になんで手を出さないんですか?タイプじゃないとか?」

はぁ?と。思わず声が漏れてしまう。
出水の的外れにも程のある言葉に溜息をついて俺はリンに手を出さない理由を口にした。

「手ぇ出して嫌われたくねーだろ」
「え、」

リンに嫌われたら凹む。
それが俺がリンに手を出さない1番の理由だった。
俺の返答を聞いて何故か足を止めてしまった出水に「置いてくぞ」と声をかければ出水は返事をしてすぐに俺に追いつくのだった。



(え、太刀川さん。マジなのかな)




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