居心地が良い



ケイはへんなひとだと思う。
でも私はそんなケイが嫌いじゃない。


「どーぞ。つっても少し散らかってるから適当に片付けるわ」
「手伝う」
「いーからそっちの…ベッドにでも座ってろ」
「………」

あれはケイの家に初めて訪れた日のこと。
私は暫くは発信機付きのブレスレットを肌身離さず付けるという条件でボーダー隊員として活動する間はケイの家で世話になることとなった。嫌だったらすぐに言えとシノダは言っていたけれど今のところ不満は全くない。以前の主に比べればケイと過ごすのは居心地が良く雲泥の差だったから。

ケイに言われるがままベッドに腰をかける。ギシッと少しだけ軋む音がして、そういえばベッドに腰をかけたのなんていつぶりだろうと懐かしくなった。ケイはうわー、なんて言いながらも部屋を片していく。散らかってると言ったものの生活をするには困らない程度には片付いている。かえって気を使わせてしまったのが申し訳なかった。

「あ、そういえば服とか色々揃えなきゃだよなー。国近にでも頼むか。今日は俺の服で我慢しろよ」

ほい、と渡された大きな服。
それからケイはシャワーの使い方や石鹸の種類などを教えてくれて私はケイに言われるがままシャワー浴びた。何の成果を挙げたわけでもないのにシャワーを浴びて良いなんて。今までとの境遇の差に戸惑いつつもケイが「いいよ」と言ってくれるので私は言われるがままシャワーを浴びて渡された服を着ることにした。

「お、シャワーちゃんと使えたか?」
「使えた」
「そりゃ良かった。つーか、やっぱ服でかすぎるか」

ケイが苦言するように渡された服はとても大きかった。それこそズボンはどれだけ調整しても下がってきそうなほど大きい。けれど着れないことはない。そして何より、

「構わない」
「構うだろ」
「ケイの匂いがする。これがいい」
「…………」

私はケイの匂いが好きだ。安心する。いつからか分からないけど、気付けば側にいてくれることが多くなったケイの匂いが私は好きで、この服からはケイの匂いがしている。今まで着てきたどんな服よりも満足度が高い。そんな私の発言にケイは何ともいえない表情を浮かべている。…困らせてしまっただろうか。

「…返せと言うなら、返す」
「いや、いーよ。ていうかリン。それ天然?」
「それとは?」
「……天然ね。たちかわりょーかい」

よく分からないことをケイは言う。けれどどつやらこの服は着たままでいいらしい。返せと言われなかったのが純粋に嬉しかった。

「まあとりあえずメシにするか。レトルトだけどいいよな」
「れとると、」

ケイが用意してくれた食事は良い匂いがしていて食欲が湧いてくる。どうやらこの国では捕虜という立場でも相手が良いと言うのなら対価なく食事を摂っていいらしい。主の元に引き取られてからはずっと対価を支払っていた私にとっては未だに慣れないもので、チラッとケイを見るとケイは手を合わせて「いただきます」と言った。それを真似してみると、

「おー食え食え」

とケイからの了承を得たので私は目の前に出された食事を食べることにした。

「!」
「うまいだろ?」
「美味しい…」

この国の食べ物は本当に美味しい。こんなに満たされていいのだろうか。今までの境遇との差に戸惑いながらもケイとの心地良い空間と美味しい食事に満たされながら、差し出された飲み物に口をつけると突然口の中で爆発したような錯覚に陥り盛大にむせてしまうのだった。




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