▼ 玄界民は厄介だ
ヒュースがおれたちと同じチームに入ることになった。おれとしては強い仲間が増えるのは良いことだしなにより近界民の仲間が出来るのは素直に嬉しい。クローニンさんがヒュースのトリガーセット構成を見るというのでついて行くことにした。ヒュースは思ったよりちゃんとチームのことを考えていて、次々とトリガーを選択していく。
「ふむ、変化弾…」
「それにエスクードか。それならヒュース、リンに教わるのが早いんじゃないかな」
「トリマルじゃないのか?」
どうやらヒュースはとりまる先輩が変化弾とエスクードを使うところを見たことがあるようだ。ヒュースは元々アフトクラトルの兵士としてこっちの国に来たんだしとりまる先輩と戦ったのかもしれないな。
「京介も確かにありだな。ただ、変化弾は銃を使わずトリオンキューブを使うなら玉狛で一番上手なのはリンだよ」
「ふむ。確かにリンの教え方は上手いと思うぞ」
おれとクローニンさんの言葉を聞いてヒュースは少し考えてから分かった、と一言だけ呟くのだった。
「リン。変化弾とエスクードの効率的な使い方を教えてほしい」
「え?あ、ヒュースB級になったんだよね。おめでとう!」
「おかえりリン」
おれの言葉にリンはただいま、と返してくれる。夜になって帰ってきたリンにヒュースはクローニンさんの助言通り変化弾とエスクードの使い方を教わる気になったようだ。ただ、あまりにもストレートな頼み方だけど。
「ああ。一日でも早く使いこなせるようになりたい。頼む」
「うん、いいよ」
じゃあ訓練室に行こっか。と帰ってきたばかりなのにも構わずリンは嫌な顔一つせずにヒュースの頼みを承諾した。そう言えば以前、オサムも射手についてリンに教えてほしいと頼んでいたことがあった。あの時もリンは嫌な顔一つせずに今と同じように二つ返事でオサムの頼みを了承していた。オサムはこっちの人間で。ヒュースやおれは近界民なのにな。
「リン、おれも見学していいか?」
「いいよー」
やっぱり二つ返事。
リンってお願い事断ることあるのかな?
リンのエスクードの使い方は面白いし変化弾はクローニンさんが言った通り上手だ。おれは直接対決は出来なかったけれど予習していたなすさんよりリンは相手にしたら手強そうな印象だ。まあ、実際にやってみなきゃ分からんところもあるけれど。ヒュースも流石というか、飲み込みも早ければ筋も良い。おれたちのチームの即戦力になることは間違いないだろう。
「ヒュース凄いね。器用!」
「トリオンの扱いは得意だからな」
と言いつつも褒められて満更じゃなさそうなヒュースは面白いやつだと思う。リンも自分のことのように嬉しそうにしてるし、やっぱり教え方も優しいからヒュースもやりやすそうだな。
「じゃあ、こういう応用も使うともっと戦略に幅が広がるかも」
そう言ってリンは隠すこともなく自分の手札をヒュースに、そしておれに晒していく。お互いを高め合うという行為は間違っていないだろう。隊員が強くなるほどボーダーの質も上がっていくのだから。だけど、
「……俺は有難いが、手の内をこんなに晒してしまっていいのか」
「手の内?」
ヒュースもおれと同じことを考えていたらしい。そう。俺は今のところ近界にすぐ戻るつもりはないけれどヒュースは違う。アフトクラトルに帰るためにおれたちと組んだ敵国の兵隊だ。ヒュースがこの国のトリガーのことを知れば知るほど将来的に不利になる可能性は十分ある。それこそ直接指導したリンにとって手の内を知っているヒュースは敵に戻れば厄介な相手にしかならないというのに。
「俺は…今は違うがおまえ達玄界の敵だ。それに変わりはない。あまり情報を与えるのは得策ではないだろう」
「ヒュースはリンを裏切るつもりなのか?」
「裏切るもなにも俺は元々アフトクラトルの、主の兵隊だ」
ヒュースはそれ以上は続けなかったが場合によってはおれ達と再び敵対することも十分にあり得るのだろう。全く。ウソで媚を売っておくことだって出来るのに真面目なヤツ。
「なるほど。まあ、それはそれで良いんじゃないかな」
「は…?」
「私はヒュースが教えてほしいって言ったからそれに応えてるだけ。そりゃあ、ヒュースと敵にはなりたくないけど…ヒュースの役に立てて、それは遊真達の役に立つことにも繋がってるから私はたいへん満足です」
リンのウソひとつない言葉と笑顔にヒュースも面食らっている。それからもリンはヒュースに自分の教えられることは教えて、後半はおれも加わって連携の訓練まで付き合ってもらったところで夜ご飯の時間となり今日の訓練は終わりとなった。
「……玄界の人間は警戒心が薄すぎると思う」
ヒュースがおれにそんなことを言ってくる。言いたいことはわかる。おれも初めてオサムに会った時は驚いたからな。それに…見ず知らずの相手だったおれのために川に飛び込んできたリンにもな。
「驚くよな。あっちじゃお人好しはなかなか生き残れんから」
おれの言葉にヒュースはああ、と頷く。
「でも、おれはそんなお人好しが結構好きだな。ヒュースだって悪い気はしないだろ?」
「…確かに邪険に扱われるよりはマシだ」
「ははっ。素直じゃないな」
情がうつりすぎると色々やりにくいよな。
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