遺されたものたち | ナノ


▼ 似てるらしい

こなみ先輩から話を聞いてからというもの。おれはリンが少し気になる存在になっていた。

「あ、遊真。どら焼き買ってきたから食べてね」
「お。これはこれは。リンはよくこういうものを買ってくるんだな。好きなのか?」
「え?好きなのもあるけど、なんと言ってもですねー」
「わぁっ」

ふふふっ、とにやにやしぱなっしで笑うリンは隣に座ってどら焼きを食べていたチカに抱きつく。それはもう、満足そうな笑顔で。

「新しく出来た後輩が可愛くて仕方ないのです!甘えていいんだよー!」
「ありがとうございます、リンさん」
「ぼくの分まで…いつもありがとうございます」
「ふふんっ。良きかな良きかな」
「俺の時はこんなに奢ってくれなかったけどな」

とりまる先輩がどら焼きを頬張りながらそう呟くとリンはバツの悪そうな顔をする。ふむ。どうやらとりまる先輩よりもリンのほうがボーダー隊員としては古株のようだ。
空いていたオサムの隣に座ってリンが買ってきてくれたどら焼きを頬張ると程よい甘さで美味しい。リンはおれ達が玉狛に来てからよくおやつを買ってきてくれたり果物を買ってきてくれたりする。それを食べてるおれ達を見て本当に幸せそうに笑うのだからどっちがもてなされているのか分からなくなるくらいだ。

「ぐっ…!とりまるはほら、歳が同じでしょ?あとなーんか落ち着いてるしさぁ…え、もしかして可愛がってほしかった?」
「いや、いい」
「即答!」

あはは、とリンはやっぱり楽しそうに笑いそれに釣られるかのようにおれ達も笑顔になる。リンといるのは楽しい。場が明るくなる。だからこそ、こなみ先輩の話したリンとの相違が気になって仕方がない。

(まあ、目に見えるものが全てとは限らんからな…)

それは自分も同じだから理解出来ることだった。おれは死にたいわけじゃない。でも、親父にこの命を返したくてこの国にやってきた。それは「死にに来た」と取られても間違いではないだろう。結局それは叶わず宙ぶらりんになった状態をオサムに引き止めてもらえたからおれはここにいるけれど、もしそれがなかったらおれは今、どう生きていただろう。そんな俺の考えを見抜いていたのはレプリカだけで、もしかしたら…いや、多分オサムにはバレてしまってると思うけれど他の人にはきっとバレてないと思う。
おれにとってのレプリカがリンにとってのこなみ先輩なのかもしれない。レプリカも核心には触れなかったもののずっとおれに「未来」の話をして生きるように促していたから。

「遊真?私の顔に何かついてる?」
「いや、美味いよこれ」
「ほんと?また買ってくるね!」

そう言ってリンはやっぱり嬉しそうに笑った。

(ああ…)

こなみ先輩があんな苦しそうな顔をしたのも、レプリカがおれに希望を聞かせ続けたのも分かる気がする。それは至極単純な理由で、ただこのまま生きててほしいって。そう願ってるだけなんだ。



「お、遊真だけか」
「迅さん」
「どら焼きもーらい。またリンが買ってきたのか。感謝感謝」

ひと時の休憩を終えてこなみ先輩を待つおれ以外はそれぞれの用事へと姿を消していたところに迅さんが現れてリンの買ってきたどら焼きをひょい、と手に取るとソファーに座ってそれを頬張り始めた。
迅さんは知っているのだろうか。そのどら焼きを買ってきたリンがこなみ先輩を曇らせるほどの何かを抱えてることを。…おれからは聞けない。こなみ先輩にもリンにも、勝手に話すのは良くないと思ったから。

「リンのこと、気になる?」

そんなおれに逆に質問を投げかけてきたのは迅さんのほうだった。

「どういう意味?」
「そのままの意味。遊真とリンはきっと仲良くなれると思うよ」
「それは…迅さんのサイドエフェクト?」
「いや、二人の先輩としての自信だな」

よっと。あっという間にどら焼きを食べ終えた迅さんは立ち上がって大きく伸びをして、おれのほうへと振り返った。

「似てるよ、おまえら二人は」
「おれとリンが?」
「ああ。だからきっと大丈夫だ」

それだけ言い切ると迅さんはぽん、とおれの頭に一度だけ手を乗せてこの場を後にした。
迅さんのサイドエフェクトは未来を見ることが出来る。なにかを見たのだろうか。けれどそれを聞いてもきっと答えてくれないとも思ったし、聞くのは迅さんの負担になるからおれの選択肢からはすぐに消えていった。

「似てるか…」

リンも何かを失くしたのだろうか。
生きることに執着を失くすほどに。


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