▼ 可愛い後輩たち
「え?」
一週間ほど本部で手伝いをしていた私が久し振りに玉狛支部へ戻ると見慣れない子が二人、そして見覚えのある子が一人増えていた。
「リン、おかえりー」
「うさみただいま…って、あれ?あの時の…?」
「どうも。その節はお世話になりました」
「え、いえいえどうも」
両手を合わせてぺこり、とその子は頭を下げてくるので私も釣られて頭を下げる。この子は以前に自転車の練習をしていて川に落ちた子だ。綺麗な見た目をしていたのでよく覚えている。
その子がどうして玉狛に?
「遊真くんと知り合いなんだ?」
「ゆうまくん?」
「? この子だよ、空閑遊真くん。あっちが三雲修くんで、この子が雨取千佳ちゃん」
一週間前は姿のなかった三人のをうさみが紹介してくれて、三人は礼儀正しくお辞儀をしてくれた。どうやら迅の紹介で入った玉狛支部の新しい隊員らしい。うちは方針が特殊だと言われていて、おまけに実力主義なところがあるため新人が入ることは珍しい…というかほとんどない。つまり。
「えーー!私は斎藤リン!よろしくね!なんでも聞いて!」
そう言って一人ずつ握手をすると三人ともすこしぎこちなさそうに、だけど快く手を握り返してくれた。だって可愛い後輩ですよ!なんでもしてあげたくなっちゃう!
「小南達がそれぞれ師匠なんだよ」
「えっ、ず、ずるい…!」
私がいない間にそんな楽しそうなことをしていたなんて恨めしい…!
いいなぁ。私も師匠とか呼ばれてみたかっ…いや、それはそれでむず痒いかもしれない。
「リンも強いのか?」
「私?結構強いよ」
「遊真くんは小南相手に何本か取れるくらい強いんだよ」
「こなみ相手に…!?」
うさみの言葉に素直に驚く。
こなみは強い。っていうかめちゃくちゃ強い。それこそ一対一で戦えば私が勝ち越すことはまず無理だろう。だというのに遊真、は一週間でこなみの実力に迫るということだろうか?そんなことある?ないよね?
「遊真、もしかしてトリガー経験者?」
「ボーダーのはここにきてからしか使ったことないぞ」
「ボーダーのは?」
「おれ、近界民だから」
「え、そうなんだ!」
なんと。綺麗な子だとは思っていたけれど近界民だったんだ。クローニンもだけど遊真も外国風の顔をしていると言われれば確かにそうだ。
トリガーは元々近界から渡ってきたものなのだから近界民である遊真が使いこなしているのは何もおかしくない。ただ、こなみと渡り合えるほどの実力があるってことは…
「そっか…遊真、向こうでは結構戦うことがあったんだね」
「ふむ…?確かにあっちではほとんど戦争をしてたけど…」
近界への遠征には何度か行ったことがある。だから私は知っていた。向こうはこちらよりかなり「殺伐」としていることを。遊真はきっと、幼い頃からそういう境遇を生き抜いてきて、だからこそ実力が伴っているのだと思うと少し悲しかった。
「…こっちの世界は向こうよりのんびりしてるから、楽しくいっぱい遊ぼ!」
「リン、近界に…というか、ほんとにここの人達はリンも含めておれが近界民だと知っても嫌がらないんだな」
「え?あー、偏見持ってる人もいるもんね。うちはそういうのは一切なし!だから遊真も、それに修も千佳ちゃんも楽しく強くなろうね」
真面目そうな修。可愛らしい千佳ちゃん。
二人ともまだまだ時間はかかりそうだけど強くなって楽しくトリガーを使いこなしてほしいと思う。
そして二人以上に気になったのは遊真だ。彼は確か15歳だと言っていた。最近こっちの世界に来たということはそれまでは近界で戦地を彷徨っていたのかもしれない。こっちの世界なら遊んだり、楽しく過ごすのが当たり前の年齢を戦争に費やしてきたのだろう。ならせめて。これからはいっぱい楽しいことを経験してほしいと願わずにはいられなかった。
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