遺されたものたち | ナノ


▼ 楽しい日々

この国に来てから2年。そしてあれからもう少しで1年が経とうとしている。今日も私はデュイさんに頼まれた買い出しに出かけていた。

『メディルは豊かな国だ。攻め込まれる心配も殆どなく物資に困ることもない』
「うん。最初はお金に厳しいイメージだっけど…まあ今もお医者さんは厳しいか」

私と一緒に買い出しについて来てくれたレプリカとそんな会話をする。メディルはヒュースが言っていた通りお金に関しては厳しい国だけれど慣れれば住みやすい国だ。私達の国に比べたら全てのものが高く感じるかもしれないけれど殆どの人がそれを払う能力も兼ね備えている。住めば都ってやつかな。

『それにしてもリンはこちらの言葉が本当に上手くなったな』
「2年も住んでればね。最初の頃は結構苦労したけど今は読み書きもほぼ問題なし!」
『それは頼もしい。換装していなくてもユーマと話せるのはいいことだ』
「そうだね。私もそう思う」

そんな話をしているとあっという間に今の私たちの家であるデュイさんの家へと到着する。ただいまーと声をかけてみるものの返事はない。そういえばデュイさんはフィオト先生のところに用があるって言ってたっけ。ということはこの家には遊真と、

「んん!?ユーマ、また背が伸びたな!?」
「ダーヤンに追いつくのも時間の問題ですな」
「はーん!?ボクは高身長イケメンだから無理だね!……っというか!また義肢の調整をしなければいけないじゃないか!」

今となってはすっかり遊真の義肢の主治医であるダーヤンの声が聞こえてくる。
1年前、私達は遊真の手術を無事成功させることが出来た。遊真の本体は黒トリガーの中で殆ど時間が止まっていたようなものだったとデュイさんとダーヤンは断定した。つまり、遊真の精神年齢は16歳だけど体はまだ12歳になったところだそうで。それを証明するかのように遊真の体は成長期に入ったらしくダーヤンが嘆くほど日に日に成長している。

「すまんなダーヤン。でもおれ、まだまだ背が伸びると思うぞ」
『ユーマの父である有吾も身長は高かった。その可能性は十分あるだろう』
「お。レプリカ、リン。おかえり」
「遊真ただいま。ダーヤンもいつもご苦労さま」
「ふふん、まあボクにかかればユーマの義肢くらいすぐに調整出来るんだからな!」

得意げな表情でダーヤンは遊真の義肢を調整していく。…私は自分の国の義肢のことにも全然詳しくないけれど、こんなにすぐに調整出来るのはダーヤンが優秀なこととこれが「トリオン義肢」だからなのだろう。この技術は本当に凄いもので、きっとこの技術と私達の国の技術が合わさったらもっと多くの人が命を救えると思う。そう。それこそ遊真が助かったように。

「じゃ、ダーヤンが調整してくれてる間はトリオン体でいるな」
「出来るだけ今のユーマの身長に近付けてくれよー」
『承知した』

遊真が手に持っているのはリハビリ用に換装だけ出来るトリガーだ。レイジさんがよく「生身で動ける感覚がトリオン体に繋がる」と言っていたけれどダーヤンが言うにこのリハビリはその逆をやっているとのこと。トリオン体で動ける感覚をちゃんと掴んで、それを生身に戻った時に生かす方法でメディル…というよりもトリオンで処置をする国では一般的なリハビリ方法らしい。ただし、遊真は成長期で背が伸びてしまう。トリオン体でのリハビリは本体と殆ど相違の無い状態で行わないと上手くいかないのでその都度トリオン体の調整が必要であり、その調整はレプリカが行っていた。

(あっ)

遊真がトリオン体へと姿を変える。トリオン体の時は失ってしまった目も脚も腕も全てが揃った状態になるけれど左目の機能は敢えて戻さないことにした。それも生身に戻った時に違和感を残さないためだ。
そして何よりも懐かしく感じるものがある。それは、

「こっちのほうがリンはすきか?」

私の視線に気付いていたのか遊真が自分の髪の毛を触りながらそんなことを聞いてくる。生身の体を取り戻した遊真は黒髪の少年だった。それが本当の遊真の姿だったのだろう。トリオン体の設定も黒髪に戻すことは出来たのだけど、遊真は選べるなら白髪のままでいいと言った。


「こっちは親父がくれた身体だから」


そう言った遊真はとても優しい表情をしていて、そして今でもお父さんと一緒に生きているのが伝わってくる。遊真が生きている限り、遊真のお父さんも遊真の中で生き続ける。それはデュイさんの元で得た私たちの1つの答えだった。

「どっちも好きで選べないよ」

私がそう返事をすると遊真は満足そうに笑いながら私の元へとやって来て触れるだけのキスをしてくれる。

「どっちもリンにやるよ」

うっ、カッコ良すぎる。
上がりすぎるテンションをなんとか理性で押し留めて再び遊真に目線を移すとそれは以前よりも確実に私に近付いてきている。今となってはほとんど同じくらいの身長になってる気もするな…?

「えっと…遊真、本当に背が伸びたね」
「うむ。まだまだ伸びる予定デス」
「私よりも大きくなっちゃいそう」
「勿論。リンより大きくなるのが目標だったからな」
「そうなの?私は遊真が小さくても大きくても好きだよ?」
「…………不意打ちはずるいぞリン」

遊真が照れたように目を逸らす。ふふん、いつもやられっ放しの私じゃないのです。遊真にはこれからももっと気持ちを伝えていきたいな。生きてて良かったって、お互いもっと思えるようになりたい。バチっと再び遊真と目が合う。嬉しそうな愛しそうな笑顔で私を見るその目が好き。きっと私も同じ目をしてるんだろうな。

「はーーーーーーい!義肢できた!すぐ出来た!換装を解きたまえユーマ!」
「むっ。いいとこだったのに」
「知ってるよ!わざとだよ!」

ばーかばーか!なんて言いながらもダーヤンはちゃんと義肢の調整を終えているしユーマはそんなダーヤンに恨み言を言いつつも楽しそうだ。ダーヤンはお調子者な面もあるけれど素直で正直な人で、誤魔化すことはあっても人を傷つけるウソはつかない。ウソが解ってしまう遊真とはどうやら相性が良かったらしくかなり仲良くしている。そんなダーヤンを遊真も人としても主治医としても信頼するようになっていて関係はとても良好だ。

「ただいまー。相変わらず騒がしいわね」
「あ、おかえりデュイさん」

そんな賑やかな家に主であるデュイさんが帰ってくる。荷物を下ろしてフィオト先生との話を漏らして。そしてあることを口にした。

「そういえば。玄界が範囲内に入ったわよ。一月以内ならレプリカの門で帰れるはずよ」

どうするの?と。
デュイさんは何事もなかったように大切なことを口にするのだった。


prev / next

[ 戻る ]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -