遺されたものたち | ナノ


▼ やきもちと約束

遊真とレプリカと無事再会することが出来た私は2人と共にデュイさんの家に向かうことにした。ダーヤンがなにか言っていたけれど、今度聞くねと軽くあしらってしまったので今度謝ろう。うん。
家に着くなりデュイさんは遊真の姿を見て、少しだけ驚いたような顔をしてすぐに安堵した表情を浮かべてくれる。

「久しぶりね、ユーマ」
「デュイさん、お久しぶりデス」
『初めましてデュイ。私はレプリカ。ユーマのお目付け役だ』
「へぇー、トロポイなんて久々に見たなぁ」

初めましてレプリカ、と。デュイさんはレプリカと挨拶を交わす。ユーマはアフトクラトルで無事レプリカと再会出来たらしい。離れていた1年、私は私で努力をしていたけれど遊真もかなり大変だったようだ。アフトクラトルでは怪我人は出たものの当初の目的はほぼ果たせたらしく、アフトクラトルという国と和解までは至らなかったもののハイレイン達とは秘密裏に同盟を組むことも出来たとか。今も玄界とアフトクラトルとの交信は続けているらしい。そんな話をしていると

「私、アフトクラトルきらーい」

べーっと。まるで子供のように感情を露わにするデュイさんは珍しい。……本当に嫌いなんだろうなぁ、と察して私と遊真はアフトクラトルの話を切り上げることにした。

「さて。じゃあ約束通りユーマの体をなんとかしなきゃね」
「できるのか?」
『デュイ。ユーマを助けられるのなら是非お願いしたい』
「前と言ったと思うけれど五分よ。全力は尽くすけれど。ユーマがどこまで耐えれるかにかかっているわ」

そう言ってデュイさんはトリガーを起動し両手が黒い手袋のようなもので覆われた。あれがデュイさんの黒トリガー。デュイさんのお父さん。

「父の黒トリガーは無痛のトリガー。私がトリオンで覆った部分は解除するまでは痛みを感じないの。けれど傷が塞がるわけでもなければ傷の進行が止まるわけでもない。痛みを止めてる間に止血や処置を手早くする。そしてユーマは気を強く持つ」
「ふむ。気を強く」
「言うのは簡単だけどそれが最重要よ。人間は気の持ちよう次第で簡単に死んでしまうから」
「遊真、頑張ろうね!」

デュイさんと私がそう声をかけると遊真は「まかせろ」と笑ってくれる。その表情に迷いはない。私だって絶対に助けたい。そのために今日まで頑張ってきたのだから。

「お腹の傷は私が見るわ。目付近の傷は話を聞く限り脳には達してないからリンで十分ね。予定通りあなたが見なさい」
「はい」
「それで手脚なんだけど……」

うーん。とデュイさんが腕を組んで唸る。デュイさんの腕は凄まじいもので一つずつの外傷なら全てデュイさんが処置出来るだろう。ただし今回はそうはいかない。遊真の傷は全て同時に処置しなければならないからだ。私とデュイさんだけではどうやっても手が足りない。なので…

「やっぱりフィオト先生にお願いするのが1番では…?」
「あいつに借りを作るのはねぇ…第一、お高いのよ。あいつ」
「遊真を助けられるならどれだけかかってもお金は用意します!」
「リン…」

遊真が私の名前を呼ぶ。それだけでもこんなに嬉しい。彼を失わないで済むのなら何だってやるつもりだった。フィオト先生の腕は超一流で請求額もこれまた超一流というのは私も知っている。そんな彼が私に指導をしてくれているのは昔デュイさんが貸していた借りをチャラにするというものだった。そんな条件で大丈夫かと思ったけれどフィオト先生は快く受け入れてくれたのでデュイさんに大きな借りがあったのは間違いない。そこでフィオト先生の息子のダーヤンに出会って、………そういえば、ダーヤンは…

「あ!」

フィオト家の次男、ダーヤン。
口調も軽く失言だって多い。おまけにお調子者だ。けれどその腕は超一流の父に迫るものだと………自称していた。

「ダーヤンは、どうでしょう…?」

そう。自称なのだ。
私と話す時、彼は確かに知識は豊富だった。ウソをついているようにも見えなかったけれど彼は少し見栄を張るところがある。デュイさんなら彼の本当の腕を知っているだろう。諦め半分でダーヤンの名前を出すと私の思っていた反応とは違いデュイさんは少し目を輝かせた。

「いいじゃない。優秀よ、あの子」
「え!本当ですか!」
「フィオト家は長男が父親譲りで飛び抜けて優秀だから霞むけれど、ダーヤンも1人で医療場に立てるくらいには優秀よ。あの一家はトリオン義肢についても詳しいからうってつけじゃない」

それに、と。
デュイさんは悪戯っぽく笑う。

「ダーヤンならリンがキスでもしてあげればお金も取らないんじゃない?」
「は!?な、なんでですか…!」
「え?だってあの子リンに惚れてるじゃない。ユーマを助けてもらうかわりに良い夢見せてあげても──」
「いや、ダメだ。おれが頑張ってお金を貯めるのでリンのキスは許さん」
「わっ!ゆ、遊真……」

私とデュイさんの話を大人しく聞いてた遊真だったけれどデュイさんの提案を聞いて私を後ろから思い切り抱きしめてきた。ちょっと苦しいくらいで、……その、たぶん。嫉妬してくれてるのが伝わってきて、こんな時なのに嬉しい。いや、抱きしめる力が強すぎて苦しいけど!

「はいはい。ごちそーさま。ま、キスは冗談だとして。ダーヤンに頼んでみるのは賛成よ。一度話をしてきなさい。あの子、ちょっとお調子者だけど良い子だから」
「はい!」

知ってる。ダーヤンはちゃんと優しくて良い人だってことを。
だって彼は遊真を待ち続ける私をなんだかんだずっと励ましてくれていたから。…私が落ち込むと結婚しよう!と茶化すのだから自分でも気付かないうちに落ち込んでいた時は本当に助かっていた。


ダーヤンのところへ向かうことになった私に遊真とレプリカも着いてきてくれると言ってくれた。嬉しい。やっと会えた遊真たちと出来るだけ離れたくなかったから。ダーヤンの元へと向かっている最中にダーヤンがどんな奴か、と聞かれたのでさっき思い出したように「お調子者だけど優しい」とか「ずっと励ましてもらった」と言うと遊真が足を止めてしまう。

「遊真?」
「……リン、おれのことすき?」
「え?うん!」
「じゃあ……すきって。口に出して言ってくれ」

その言葉に、なんというか、死ぬかと思った。
これはあれだ。完璧に、遊真、妬いてらっしゃる。かわいい。すごくかわいい。愛おしい。ダメだ、好きが溢れて止まらない…!

「リン?」
「…すき。だいすき。遊真だいすき!」

そう言うと遊真は本当に嬉しそうに微笑んでくれる。その笑顔を見ると泣きたくなってしまうくらい、本当に大好きで。遊真のためならなんでも出来ると改めて思い知らされた。

「おれも、だいすき」

そう言って遊真は私の唇に自分の唇を重ねた。遊真のキス、好きだな。ううん、遊真の全部が好き。何度も角度を変えて唇を重ねてくる。いつまでもこうしていたい……

「ひゃ!?ぁ、うっ、ふぁ、……っ!」

突然遊真に脇腹をくすぐられ思わず口を開くと遊真は待ってましたと言わんばかりに私の口の中に自分の舌を差し込んでくる。驚いている間に押し倒されて両頬を遊真の手に覆われているため顔を背けることも出来ない。

「んっ、んんぅ、っぁ、!」

遊真の舌が私の口の中でも暴れ回っていてまともに息すら吸えない。遊真のキスが気持ちよくて力も入らずされるがまま遊真の舌を受け入れるしかない。う、嬉しいけど!こんなにもしつこいのは初めてなんじゃないかってくらいに遊真のキスはしつこくて長い…!酸欠でくらくらしてきた頃、やっと遊真は唇を離してくれて悪戯っぽく舌を出して笑っている。私の唾液と混じり合ったその舌先が妙に艶かしくて恥ずかしい。はぁはぁ、と肩で息をして目に涙を溜めてる私の目尻に遊真は優しくキスを落とした。

「おれ以外とキスしちゃダメだからな?」

かわいいなんてもんじゃない。
遊真の嫉妬心は思ったよりも凄まじいもので、その目に灯る独占の色が心地良いなんて。相当自分も遊真に溺れていると自覚させられるのだった。


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