遺されたものたち | ナノ


▼ 約束を胸に

「父と同じ言葉を口にしたリンとオサムには興味を持てたし、好きな人を助けたいってリンの気持ちには同調したし、私達を見捨てたアフトクラトルとは違う答えを出したシノダにも感動してね。出来る限りのことはしてあげたくなっちゃったの」

ごほんっと照れ隠しをするようにデュイさんは咳払いをした。

「要するにあなた達が気に入ったってことよ。だからユーマ。ちゃんとリンのことを迎えに来なさい。ちゃんと迎えに来たら、あなたの体もきっとなんとかしてあげるから」

ずっと。デュイさんの口元は綺麗なままだった。少しの濁りもない。今おれに話してくれた話は全て本当にあったデュイさんの人生で、そしておれ達に心を砕いてくれていることも本当の言葉だった。そして──

「ふむ……すごいな」
「? まあ、私はすごいわよ」

その自信たっぷりな発言に思わず笑ってしまう。デュイさんは…そしてデュイさんの恋人だったケリーさんはすごい。


『デュイが生きてる限り、僕たちの想いはきっと生き続けるから』
『遺された私が2人の意思を継ぐ。私が生きてる限り彼らは本当の意味では死なないのよ』


これは……正直響いた。響きすぎて、今も気持ちが整理出来ないくらいに。おれとリンがずっと求めていた答えを示されたような気分だ。おれが生きている限り、親父はおれの中で生き続ける。リンが生きている限り、リンが助けることの出来なかった人達もまたリンの中で生き続けるのだろう。遺されたおれたちに、ちゃんと出来ることはあったんだ。

「…デュイさんの話、いつかリンにも聞かせてやってくれ。きっと、それが必要だから」
「聞いてるわよリンは。さっきからぐすぐす言ってるじゃない」
「えっ」

デュイさんにそう言われてリンのほうへと目をやるとリンはシーツを頭まで被って確かにぐすぐすと…泣いている。そっか。リンも今の話、ちゃんと聞けてたんだな。

「もー、だから昔の話をするのは嫌なのよ。同情とか可哀想とか、そういうのはいらないのよ」
「……っちが、う!……っあ、痛ァ…!」

反射的に返事をしたリン。傷に構う暇もなく声を発したため痛んだらしくデュイさんに「あーもう、何やってるのよ」とシーツを捲られて顔をゴシゴシと拭われていた。
リンは別にデュイさんに同情して泣いたわけでも可哀想だと泣いたわけでもない。きっとリンにも「響いた」んだろう。
リンと目が合う。おれもリンもきっとデュイさんの話を聞いて同じことを思ったのだろう。自分が生きてしまって、自分だけが遺されてしまって。そう思っていたおれたち。
同じような境遇に陥って、逃げずに大切な人を自分の中で生かし続けたデュイさん。
ああ、きっと。おれたちは出会うべくして出会ったんだな、なんて。ちょっと夢を見過ぎかな。そんなことを思いながらおれもリンも笑うのだった。





あの日から遊真はずっと一緒にいてくれた。
でも、それも昨日で終わり。

遠征艇の補給も無事完了し、昨日私を除いた遠征メンバーは目的地であるアフトクラトルへと旅立って行った。もちろん、遊真も一緒に。
出発までの期間は隊ごとにお見舞いに来てくれたり、忍田さんはそれこそ何度もここへ足を運んでくれた。私が近界へ残ることはこなみによく謝ってほしいことと、家族には迅の未来予知を駆使してなんとか上手く伝えてくださいと頼めば忍田さんは必ず伝える、と頼もしい返事をしてくれた。

遊真と思いが通じ合ってからも私たちは今まで通りに過ごして、たまに気持ちを伝え合ったりもして。仕方がないとはいえいつも一緒にいてくれた遊真がいなくなることを寂しくないと言えばウソになる。遊真にはそんなもの通用しないのも分かっていたから私は遊真にちゃんと伝えていた。

「遊真、私寂しいよ」

そう伝えると遊真は「おれも」と困ったように笑ってくれた。それだけでいいの。それがきっと約束になるから。

「だからちゃんと…レプリカと一緒に迎えに来てね。ずっと待ってるから」
「…ああ。約束だ、リン」

そう言うと遊真は私に優しくキスをしてくれた。好き。大好き。溢れる想いに今だけ蓋をして、私は遊真にいってらっしゃいと声をかけた。遊真はいってくる、と。まるで玉狛支部にいた頃のようなやりとりでこの場を後にした。

遊真がいないこの部屋はいつもより広く感じてはっきりと寂しく感じる。でも、大丈夫。遊真は必ずレプリカと一緒に迎えに来てくれるから。だからその時、私は遊真に誇れるようにしっかりと生きていこうと思う。こんなに頑張ったんだよ。すごいしょ?そう言ってやるんだって。

そうと決めれば即行動!
私は自由の効く右手でデュイさんに用意して貰った本を開いた。それは全然読めない文字で書かれている医学書だった。
ここから始める。大好きな人のために出来ることを。どんなに時間がかかろうとも。


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